エバは行く
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| エバ・グレッス20歳 春。 エバは自分のテントの中で銃の手入れをしていた。 砂詰まりが激しい。こないだ砂嵐に会ったのがまずかったようだ。 暦の上では3月だがこの周辺はそう気候は変わらない。 「エバ、いるかい?」 外から声がした。 「ああ、入っていいぞ」 入り口からアルバンスが入ってきた。 何か思いつめた様子だった。 ここのところ彼はずっとこの様子だった。 「どうした?腹でも痛いのか?」 「エバ、実は‥‥‥俺は明日、ラバンダに帰るんだ」 「!‥‥‥そうか」 「エバにはだいぶ世話になったが‥‥‥どうやら俺にカメラマンの才能はなかったようだ」 「だろうな」 エバも半年以上面倒をみていてそう思っていた。 戦場ではわずかな気後れも死につながる。 にもかかわらずこの青年はあまりにも鈍重過ぎた。 敵に囲まれてもろくに戦いもできない。銃も撃てない。 エバがいなければとっくに死んでただろう。 「意気込んでやってきたはいいものの、いざ本当の戦場を目の前にしたら、 ダメだなあ俺って‥‥‥あまりにも認識が甘かった」 「まぁお前は戦う為に来たわけじゃないからな。 お前が銃を撃ったの、一番最初にあたしにむかって撃った、 あの一回こっきりじゃねぇか?」 銃を磨きつつ笑うエバ。 「いや、だからあの時は本当に悪かったって!」 「ヘッ、全く‥‥‥断言するよ。お前、人を撃ったりなんか絶対できないね」 「本当に‥‥‥エバには迷惑をかけっぱなしだったよ‥‥‥」 「そうだな‥‥‥」 はっきりいって足手まといだった。赤ん坊を背負って戦ってるようなものだ。 いや赤ん坊なら軽いからまだいい。アルバンスは大の大人なのだ。 そして肝心の写真の出来も思わしくなかった。 めぐるましい戦場では、彼は身の安全を計るのが精一杯でとても撮影まで こなす事はできなかった。 それは半年以上経った今も治らなかった。 いや、よく素人が半年以上も続いたというべきだろう。というよりも‥‥‥ (なんであたしは半年以上もこいつの面倒見てたんだろ‥‥‥?) アルバンスのせいで窮地に立たされた事も一度や二度ではない。 もし同じ傭兵だったら即刻叩き出すところだ。 しかしアルバンスの担当は依然自分がやっている。自分が望んでやっている。 「それでエバ、実はもう一つ話が‥‥‥」 「アル」 「うん、なんだい?」 「お前、よく半年以上ももったな」 「‥‥‥。」 アルバンスはエバの目をまっすぐ見た。 「それは‥‥‥エバ、君がいたからさ」 「!‥‥‥」 アルバンスの目は真剣だった。大きく息を吸い込み、彼は言った。 「エバ‥‥‥君が好きだ。結婚しよう。俺と一緒にラバンダへ行こう」 「‥‥‥はぁあ!?」 突然の話のトリプルパンチにエバは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。 「と言ってもクニに帰っても俺、両親も亡くなってて、財産も家しかない、 さえない身分だけど‥‥‥でも、俺は君とがんばりたい!」 「ちょ、ちょっと待て!‥‥‥確かにお前は戦場には向いてない。 でもね、あたしは違うんだ。戦うしか、能がないんだ」 「大丈夫。エバなら大丈夫だ」 「‥‥‥その根拠の無い自信はどこからくるんだよ?」 「命を賭けて戦う事ができるんなら何だってできるさ! エバは"自分"という物をしっかり持ってる。ラバンダに来ても大丈夫だ」 「‥‥‥青臭い所は全然治ってないね」 「青臭くたっていい!さぞかし勝手な奴だと思ったかもしれない。でも‥‥‥ このまま黙って帰ったら俺は絶対後悔する。だから言ったんだ。 エバ、俺は真剣だ!」 「‥‥‥。」 「やはり、迷惑だったかな‥‥‥?」 迷惑‥‥‥? エバにはよくわからなかった。 |
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