エバは行く


エバ・ガーフィールド26歳 冬。


ラバンダに珍しく雪が降っていた。
粉雪が降る寒い夜の中、首都バンズの街中をマッジオの青い軽自動車、
ブルーパンサー号は走っていた。
「バンハイのジムはもうすぐだ」
眼鏡をかけた丸顔の男、マッジオは助手席のアルバンスに言った。
「やっとかよ。もう8時だぜ。この車遅いよなぁ」
「お前のカミさんが重すぎるんだよ」

「悪かったね」

後部座席でエバがぼやいた。スポーティなカジュアル姿。
スカートが苦手な彼女は専ら動きやすい服装を好んで着ていた。
「ママおもすぎるー」
横で娘のイリアも声を上げた。
エバと同じ白い髪。丸い瞳が愛らしい。
「ほらマッジオ、イリアの前で変なこと言わないでちょうだい。この子すぐ
 覚えた言葉使いたがるんだから」
言いつつ娘の頭を撫でる。
「ハハ、了解了解っ。それにしてもエバさんも母親が板に付いてきたなぁ‥‥‥」

ラバンダに来たエバはアルバンスと結婚。ほどなくしてイリアが生まれ、
2人で農園を細々と営んでいた。元々体力のあったエバに野良仕事は相性も良く、毎年そこそこの収穫を収めていた。
愛する家族との生活。騒動は多少あれど、平和な日々にエバは満たされていた。
そして今夜はアルバンスたちの古くからの友人、新人ボクサーのバンハイに会いに行く所だった。

「ウェールカァ〜ム!はじめまして奥さんッ!」
2m以上はあろうかという大男、バンハイはムフリと微笑んだ。
トランクス一丁。褐色の肌にたくましい筋肉、長いマツゲと濃い笑顔がチャーミング(?)。
剃り挙げたスキンヘッドが見事なまでのツヤを放っていた。
ボクシングジムで1人トレーニング中でもあったバンハイは親友達を歓迎した。
マッジオが手を差し伸べ、握手を交わす。
「いよいよ来週、試合だな!」
「ああ、絶好調よン!」
丸太のような腕が作る力コブにアルバンスはため息をついた。
「にしても前にも増してすっげぇビルドアップしたな。こりゃもう絶対喧嘩できねぇな」
「ちゃんぴおん、ちゃんぴおんー!」
イリアがはやし立てた。
イリアにとってはボクサーは皆「チャンピオン」らしい。
「ムフ☆」
単純に気を良くしたバンハイ。マッスルアピールで応える。
「そうさ、アイム・ア・チャーンプ!このバンハイ様が最強なのさァ!」
「うん、でもママのがつよいよー」


静寂。


「ヘ、ヘーイプリティガール?言ってる意味がよくわからないじゃナーイ?」
「だからぁ、おじさんよりママのがつよいよー」
「ホ、ホワァ〜イ?」
「ゆびさきひとつでダウンだよー」


静寂。


バンハイはエバを見た。確かに女性にしてはかなりイカツい体躯。
しかし‥‥‥
「ゆ、言ってくれるじゃナーイ?それならばミセス、勝負しようじゃナーイ!?」
マッジオとアルバンスが慌てて止めにかかる。
「おいおい大人げないぞバンハイ!」
「すまんバンハイ!子供のいう事だ!多めに見てやってくれよ!」

「あたしはかまわないよ」

エバは靴を脱ぎ、ジムのリングに上がっていた。


 


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