エバは行く


エバ・ガーフィールド28歳 夏。


バンズ郊外にあるマスカレード広場。
そこは集まった人々の熱気で、縁日の様な盛り上がりを見せていた。

「こりゃあ車をとめる場所を探すのに難儀しそうだなぁ‥‥‥」
愛用の青い軽自動車・ブルーレオポン号を繰り、マッジオはぼやいた。
「駐車場はどこも満員だろ?路上駐車もアリなんじゃねえの?」
助手席のアルバンスが言った。後部座席のエバとイリアも口ぞえする。
「警官にみつかったら罰金はマッジオさん持ちでね」
「もちでね」
「うん、マッジオ持ちで」
アルバンスもノッた。
「こ、この一家は〜〜〜ッ!
 アンタら車乗せてやってる私に全然感謝してないだろ!?」

ガイアの事業により、ラバンダの経済はおおいに活性化した。
近代技術が普及し始め、家々に電気も通り始めた。
その為か今年の夏のカーニバルは最大規模となった。
そして今から今年のカーニバルの目玉イベントの格闘技大会が始まろうとしていた。
優勝すれば賞金も出るこの大会に、ラバンダ中の腕自慢が続々と集まりつつあった。

結局試合場のそばの道路に青空駐車したマッジオ。他にも何台かとめられている。
「あれが試合場か‥‥‥」
空は快晴。青空の下に設置されたリングの周りに人だかりができている。
娯楽の少ないラバンダでこの大会は多くの人々の注目を集めていた。
「で、エバさん、本当に出るの?」
「出るさ。当然だろ?」
黒いシャツに迷彩ズボンのいでたちで、エバは柔軟運動を始めた。
「エバさんやる気マンマンだなぁ」
「あれだ、優勝賞金が目当てなんだよ。結構な額だろ?」
「ああ、車とか買えるな‥‥‥」
格闘大会独特の空気にイリアも興奮気味だった。
「ぜったいママが優勝するよ!だってママが負けるとこ見た事ないもん!」
「うむそうだな‥‥‥」
マッジオとアルバンスの脳裏に、エバがバンハイを屠った、あの冬の日のメモリーがよぎる。
「アル‥‥‥こりゃあ‥‥‥」
「うん、けっこうマジでいけると思う‥‥‥」


バンズ空港にてゲストのレフェリーの到来を待つクリン市長とその秘書。
「そろそろか‥‥‥」
緊張した面持ちの市長。
「はい。飛行機は予定通り到着しています。もうすぐ出てこられるかと」

まもなくして市長たちの前に、スーツケースを持った初老の男が姿を現した。
白黒縦じまのシャツに黒いズボン。すでにレフェリーのいでたち。
灰色の髪は後頭部まで後退していたが、脳天にも一本残っていた。つーか波平ヘアー。
小柄な日系人ではあったが、その目は鋭く、背筋も伸びていた。

「あれが"シルバー・ヤマダ"か‥‥‥」
「はい。今回のカーニバルの格闘大会の為にお越し願いました。
 シルバー・ヤマダ‥‥‥『リングにそびえ立つ裁判所』の異名をとり、
 今まで数々の名試合を裁いてきた伝説の名レフェリーです。
 彼の前ではどんな極悪非道なファイターもチワワと化すと言われています。
 絶対公正なジャッジが信条で、その見事な裁きの手腕には定評があります。
 一説には中東方面の最前線で銃弾をマトリックスばりにかわしながら
 ゲリラvs政府の審判をつとめた事もあるとか」
「いや本当だとしたらそれはバカだろ」

「ゲリラな、あん時ゃ苦労したよ」

「うわ!?」
いつのまにかクリン市長のそばまで来ていたシルバー山田氏。
苦虫を噛み潰した様なその表情は日本のガンコ親父そのものだ。
「あいつら、人が目離してるとすーぐ反則しやがる。ホントしょうがねぇよ。
 あの時ゃワシ、ホイッスル吹きまくったよ」
「いや、ホイッスルってあんた格闘技のレフェリーでしょ!?」
「人数多いと、ホイッスル、これよく使うね。レッドカードとかも使うよ。
 プロを名乗る以上、できうる限りの領域をカバーする。常識だ。
 しかしこれ、ここだけの話だけどさ、」
「はい?」
「政府側も、同じくらい汚い事するよ。あれよくないネ」
「あ、あんた本当に大丈夫なんだろな!?」
「今回の格闘大会、ハッキリ言ってワシから見て、かなり、小規模だネ」
「え?あ、いやあなたから見たらそうかもしれませんがしかし‥‥‥」
「しかしワシ、絶対手抜きせんよ。絶対にな。
 レフェリーの名にかけて、全力で試合を裁かせてもらうよ。さ、早く案内して!」
「は、はあ‥‥‥」
不安な気持ちにとらわれつつも、クリン市長たちはシルバー山田氏と共に空港を出た。


 


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