エバは行く


マスカレード広場横の市民体育館。
参加選手たちの控え場としてあてがわれたそこで、エバは1人ストレッチを行っていた。
足の筋を伸ばしながら周りを見る。
「‥‥‥。」
参加人数は30人くらいだろうか。ガタイのいい男たちばかりだった。
その中でも一際大きいスキンヘッドの男と、そのセコンドらしい小太りの男が近づいてきた。
「ハァ〜イ奥サン!久しぶりじゃナーイ!」
バンハイだった。
あの時よろしくボクサートランクス一丁にグローブといういでたちだった。
「ああ、あんた‥‥‥えーと‥‥‥」
「ちょ、ちょっと!?忘れたなんて言わないでヨ!?」
「いや覚えてるよ、よく覚えてる。蹴っ飛ばしたのは覚えてるんだけど‥‥‥」
「非道いとこだけ覚えてるじゃナーイ!?」
「ああ『バンハイ』だ!確か『バンハイスマァーッシュ』とか叫んでた‥‥‥」
「なんか引っかかる思い出し方だけど、まぁいいワ!言っとくけど奥サン!
 今回は俺の勝利よン!」
「あんたも出るんだ?」
ムフリと笑うバンハイ。
「当然ッ!あの時の雪辱、今日こそ晴らしてやるわよーン!」
「まぁ確かに見たところ、あんたの他には大した奴はいなさそうだね。
 この人はセコンド?」
バンハイの傍らにいた小太りの男が愛想のいい笑みを浮かべた。
「ど、ども‥‥‥セコンドのチュンといいますっ。
 あなたがあのエバさんですかぁ〜よろしくお願いしますっ」
「ああ、よろしく‥‥‥」
「ムフ☆奥サン、俺と当たるまで負けるないでよーウ?」

「おいどけよ、ハゲダルマ」

「ン?」
バンハイが振り向くと、そこに1人の青年が立っていた。
バンハイよりは、はるかに小さい。170cmと少しくらいだろうか。
ブロンドの髪の優男、という感じだった。ラバンダの人間ではないようだ。
黒のトレーニングシャツにカンフーズボン。肩の筋肉はたくましい。
青いサングラスに、耳にはきらびやかなピアスもしていた。
その顔には不敵な笑みを浮かべている。

あまり感じの良い笑みではなかった。

「‥‥‥『ハゲダルマ』とは言ってくれるじゃナーイ?」
「ハゲの筋肉ダルマだからそう言ったんだよ、オッサン」
バンハイの額にピクリと青筋が立つ。
「‥‥‥それはこの俺を優勝候補の筆頭、バンハイ様と知っての事かしらン?」
「へえ、そうなんだ‥‥‥」

「ヒュウ!ラムの奴、一番ゴツい奴にかかっていったぜ、さすがだぜェ!」
「優勝候補だってよ!ラム、なんならここで潰しちまえよ!」
いつのまにか青年の後ろに仲間とおぼしき7、8人の男たちがいた。
青年と同じく、あまりガラは良くない。
バンハイは負けじと青年を見下ろした。
「ムフ、ラムねぇ‥‥‥なんか女みたいな名前じゃナーイ?」
「ヘッ‥‥‥」

ラムの足がいつのまにかバンハイの股間へと滑り込んでいた。

「!?」
慌てて股をすくめるバンハイ。足は寸止めで止まっていた。
小馬鹿にしたように笑うラム。
「ハハハ遅い遅い!加減しなかったら今のでオダブツだったなァ?
 覚えときな、"ラットバイツ"ラム。それが俺の名さ」
「ラ、ラットバイツラム‥‥‥?」
「出るぞ。こんな汗臭いとこ、いてられねーぜ」
ラムは踵を返して控えスペースを出て行った。取り巻きの男たちもそれに続く。
「ヒャハハあいつラムの事知らねぇでやんの!」
「無理もねぇぜ、こんな田舎の国の大会じゃあよお!」
「見たか、さっきのあいつのビビった顔?ダッセェなァ!」

「ア、アイツらぁぁ‥‥‥面白い事してくれたじゃなぁイッ‥‥‥!」
バンハイはご立腹していた。当然である。
「バンハイ、気にしちゃダメだよ‥‥‥」
チュンがなだめる。
「気にすんなよ。あんな安い挑発に乗ったら思うツボだよ」
エバもなだめるが、あまり聞いていない。目とか光ってます。
「うぅうあの野郎ラムとか言ったな‥‥‥絶対ブティ殺ーす!
 バンハイスマッシュの餌食にしてやるワッッ!」
「あのおっせえパンチまだ使う気なのかよ」
「お、遅ッ!?」


 


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