エバは行く

11


「死ねやァーッ!」
大きくふりかぶって放たれるバンハイのパンチ。
ラムはその手首をつかみ取った。
「!?」
「ハイヤーッ!」
「ふべ!」
バンハイの頬が、足の甲で払われる。
「そら!そら!そら!そら!そら!」
足ビンタの応酬。
「こいつは、オマケだ!」
離すついでに足刀蹴り。あとずさりし、尻餅をつくバンハイ。
ラムがすかさずかけより、その体を踏み台にして飛び越える。
「!?」
飛び越えざまにバンハイの後頭部に踵蹴りを見舞った。
「〜〜〜!?」
バンハイの視界を星が舞った。
「のんきに休んでんじゃ‥‥‥ねぇよッ!」
尻餅をついていたバンハイの後頭部にミドルキックが炸裂した。
前へつんのめるバンハイ。
「ハハハーッ!」
両手を挙げアピールするラム。
「ヒューッ最高だぜラムーッ!」
「そのまま片付けちまえーッ!」
観客席の取り巻きの男たちが歓声奇声をあげて応えた。
「バンハイさぁーん!?」
チュンの声に、バンハイはよろけつつも立とうとした。
「だ、大丈夫‥‥よン‥‥‥パンチさえ‥‥‥当たれば‥‥‥」
「当たれば、だと?てめぇに見せ場なんざ、ねぇんだよ」
ラムが顎を蹴り上げた。そしてジャンプ。空中で一回転した。
「こいつで終わりだァ!"コーラル・トップ"(喧嘩独楽)!!」
バンハイの顔面に回転踵落とし蹴りが炸裂した。
立て続けに頭に攻撃をくらい、意識朦朧のバンハイ。キャンバスへと崩れ落ちた。
その頭をラムが踏みにじる。
「誰をボコのめすだって?自分がそうなってちゃあ世話ないわなァ?」
「ダウン!ワーン!ツー!スリー!‥‥‥」
ダウンカウントを取り始めるシルバー山田。
「‥‥‥シーックス!セブーン!エーイト!‥‥‥」

ラムがバンハイの首をつかみ、引きずり起こした。

「な、何の‥‥つもりだ‥‥‥!?」
「これで「ダウン」でなくなったなァ?"ラットバイツ"ラムの見せ場はここからだぜ?」
その頭を抱え込み首相撲に取って、ボディに連続膝蹴りを見舞う。
「そら!そら!そら!そら!"参りました"って言ってみろ!?」
「ぐっ!てっ!てめぇっ‥‥‥!」
さんざ蹴った後バンハイの体をコーナーへと蹴り飛ばす。
コーナーポストに強く打ち付けられたバンハイ。かろうじてポストにしがみつく。

観客席からマッジオが叫んだ。
「レフェリー!もう勝負はついてるだろ!試合をストップしろぉ!」
「‥‥‥。」
シルバー山田は沈黙を保ったままだった。

(チャンスは1回だけだ‥‥‥!)
バンハイは静かに呼吸を整えた。
後ろを見ると、ラムが追撃を仕掛けんとダッシュしてくるところだった。

殴りかかってきた刹那、バンハイは右拳を握り締めた。

バンハイは最後の一撃に賭けた。
「バンハイ・スマァァーッシュ!!!」
全身全霊を込めて放たれたそれは、虚しく空を切った。
「!?」
ジャンプでかわしていたラム。
「惜しかったなァ?コーラル‥‥‥」
必殺の回転蹴りの体勢に入る。
「トォーップ!!!」
脳天に踵が落とされる。決定的な一撃。


("現実"って、キビシイよなぁ‥‥‥)


膝から腰、腰から胸の力が抜け、その場で一気に崩れ落ちる。
バンハイは完全に白目を向いていた。
「根性だけじゃあどうにもなんねぇよ。もっちっと仕置きしとくかァ?」
「そこまで!レフェリーストップだ!」
やっとシルバー山田が試合を止めた。
「ウィナー、"ラットバイツ"ラム!」
「なんだ、もう終わりかよ‥‥‥もっと楽しみたかったんだがなァ。
 それにしても、シルバー・ヤマダさんだったっけ?」
「‥‥‥なんだ?」
「噂には聞いてたけど、思ったほど厳しくはないみたいだねェ。
 最初の不意打ちも見逃してくれたし。結構好き勝手させてもらえたし、
 理解あるレフェリーで、よかったよ」
「‥‥‥ワシはリングに上がって戦う者の意思を何よりも尊重する。
 正々堂々と戦う意思ある限り、戦わせる。それだけだ。しかしラム‥‥‥」
「なにかな?」
「最初の不意打ち、あれはよくない。あんな事をせずともお前は勝てたはずだ」
「ハハハそのとおり、よくわかってるじゃない?
 どうせ勝つ試合なんだから手っ取り早く済ませた方がいいでしョ?」
「‥‥‥。」
依然余裕の笑みでリングを降りるラム。
「さ〜て、決勝の相手は確かキレイなオネェさんだったな。
 今まで我慢してきたぶん、最後の試合で楽しむとするか‥‥‥」
その顔は冷酷な悪意に満ちていた。


医務室のベッドに横になっているバンハイ。頭が包帯でグルグル巻きにされている。
「ぅ‥‥ぅ‥‥‥‥」
喋ることもままならないものの、悔し涙にむせび泣いていた。
「すまねぇっすバンハイさん、俺にもっと的確なアドバイスができていたら‥‥
 俺‥‥‥悔しいっす!」
チュンも横でうなだれていた。。
見舞いに来たエバたちも、その痛々しい様子に言葉を失くしていた。
イリアがバンハイのそばに寄った。
「バンハイおじさん‥‥その‥‥‥‥‥‥惜しかったね‥‥‥」

痛い。

あからさまな慰めがかえってバンハイには痛かった。悔し涙が5割り増しになった。
「完膚なきまでのボロ負けだったっすよォ!チクショォォ!」
チュンもあまりの痛さに吼えた。
ため息をつくエバ。
「‥‥‥なんか注文ないかい?」
「え?」
虚をつかれるチュン。
「だからさ、試合の。なんかリクエストない?ラムとか言ったっけ?
 あいつ、お望み通りに料理してやるよ」
「いや、急にそんな事言われても‥‥‥」
「ぅ‥‥ぁ‥‥‥」
「バンハイさん!?」
バンハイがかすれる様な声で言った。
「‥‥‥ギッタギタ、の‥‥‥ボッコボコ‥‥‥‥‥‥フィニッシュは‥‥‥
 エキゾーストミサイル‥‥‥!」
「了解」
エバは医務室から出て行った。


 


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