エバは行く
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| 「‥‥‥え?くっ‥‥‥」 グラスの破片が顔に散らばり狼狽するラム。 「オラオラオラオラオラオラオラァァーーーッ!!」 エバはお構いなくラッシュを見舞った。両の拳で全身を殴りまくる。 ラムの体がのけぞり、打ち伏せられる。 「う、あ!?速っ‥‥‥」 顔面に、ボディに、防御しようと出した手に、エバのパンチが隙間なく当たった。 明らかに男性の大切な部分にも何発か入ってた。 「!!!!!‥‥‥こ、こいつ‥‥金的‥‥‥」 悶死寸前のラムにおかまいなし。エバのラッシュは止まらない。 両のフックでラムをサンドバックもかくやとばかりに殴りつける。 フレームのみとなったサングラスも飛んで無くなった。 あと、2本指で『ぶしっ☆』とサミング(目潰し)も見舞ったりしていた。 「うぉあッ!?‥‥‥お、おいレフェリー!こいつ、反則‥‥‥」 「‥‥‥。」 シルバー山田は厳しい表情で沈黙を保っていた。 「ま、待ったア!お願い、待ってくださいッ!ホント、待ったァ!!」 ラムの手を合わせての必死の懇願に、エバはやっと手を止めた。 「何?せっかくエンジン温まってきたとこなのにさ」 「ちょ、ちょっと‥‥‥待ってくれ‥‥‥」 エバに断りをいれ、レフェリーの方を向く。 「オイこらジジイ!レフェリー!てめぇ一体なんのつもりだァ!?」 「ファイッ!」 「ファイッ、じゃねーよ!!あいつさっきから金的とか目潰しとかしてるだろうが! なんで反則とらねぇんだよ!?」 肩をすくめるエバ。 「金的?腿を蹴りにいったのがアンタがチョロチョロするから当たっただけさ。 目潰しも眉毛を狙っただけさ」 「ふ、ふざけるな!」 「ラム君‥‥‥ちょっと傷の具合をみせてみろ‥‥‥」 ラムのダメージをチェックするシルバー山田。瞳孔の確認等を行う。 「うむ‥‥‥」 腕組みをして考え込む。エバの発言とラムの状況を照らし合わせ考える。 そして、右手を斜め下に振った。 「"有効"ッ! 問題なし!」 「有効じゃねーよ!柔道じゃねぇんだよ!明らかに反則だろがァ!」 「一度下った判定はくつがえらん!リングの上ではワシが神(ゴッド)だ」 神々しく寝そべるシルバー山田。タイの寝釈迦像のごとく優美なオーラが漂う。 「ここはリングだ。君も闘士なら己の実力で彼女の非を証明してみせろ!」 「いやアンタ言ってる事メチャクチャだァ!」 エバが背後からラムの頭を鷲づかみにした。 「待ちくたびれたんだけどさぁ?レフェリーさん、もう殺っちゃっていい?」 「ファイッ!」 シルバー山田が寝釈迦ポーズのまま小気味よく試合再開を促した。 「グッ‥‥‥舐めるなよこのアマ、いつまでも調子に‥‥‥」 ビンタで頬を張られる。 「〜〜〜!?」 続いて返すビンタで脳が揺れる。 (パワーも、スピードも‥‥‥スゴすぎるっ‥‥‥!) 「や、野郎‥‥‥」 ジャンプするラム。空中で一回転し、エバに向かって踵を振り下ろす。 「"コーラル・トーップ"!!」 「ラシャァーッ!」 ラムに向かい、逆立ち状態で飛び上がるエバ。 鋭いドリルキックがラムのボディを穿った。 「グェエエエ!」 撃墜され、キャンバスの上でのた打ち回るラム。 エバはため息をついて見下ろした。 「みっともない悲鳴あげてんじゃないよ。少なくともバンハイは悲鳴なんか あげなかったよ。アンタにゃ根性すら無いみたいだねぇ?」 「ち、畜生ォォこのアマぁ‥‥‥もう許さねえぇ‥‥‥!」 ラムの右手にバタフライナイフが光っていた。 「あらあらアンタ試合中だよ?」 「こんなもん試合と呼べるかァ!‥‥‥ぶっ殺してやるぅぅ!」 一発の銃声が轟いた。 「え‥‥‥?」 刃が折れ飛んだナイフを呆然と見るラム。 「ワシの見取る試合で凶器の使用は決して許さん」 紫煙立ち昇るトカレフ(旧ソ連製の軍用拳銃)を手にシルバー山田が立っていた。 「刃物、よくないネ。君も闘士なら凶器に頼らず、己の肉体のみで勝負せいッ!」 「いやそれ全然説得力ねぇよ!」 観客席にいるラムの取り巻きたちも吠えた。 「始めに反則したのはデカ女の方だろうがよォ!」 「最初からこんなもん試合じゃねーよ!」 「ボケてんじゃねーぞジャッブのジジイ!クニに帰ってスシでも食ってろ!」 リング内にゴミや酒瓶を投げつけてきた。 「うるさいぞチキンども!神聖なるリングに物を投げるなァ!」 シルバァのトカレフを向けつつの友好的アプローチ。 「すみません」「ごめんなさい」「もうしません」 取り巻き達は素直に沈黙した。 「‥‥‥ジジイてめー『絶対公正』が売り物だろ!ひいきなんかしていいのかよ!?」 「そうだな。不意打ちはする、戦えない相手をいたぶる、 負けそうになったら凶器を使う、少し君をひいきし過ぎていたな‥‥‥」 「て、てめえ‥‥‥!」 指をパキポキ鳴らすエバ。 「あのさあ‥‥‥もういい?」 「え、いや、ちょっと待‥‥‥」 拳に息を『ハ〜ッ』と吹きかけるエバ。 「待・た・せ・過・ぎ・だ、てめぇはよォ!」 「ファイッ!」 シルバー山田の合図で右フックがラムの顔面をえぐった。 怒涛のフックラッシュが始まった。もうエバは途中でやめる気はない。 「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァーーーッ!!!」 全身がえぐられ、揺れる。 今までに遭遇した事のない衝撃にただ成す術なく打たれるラム。 そしてエバはその場で跳び上がった。両膝が頭の位置まで上がる。 「消えな!」 意識が途切れる寸前、ラムは視界一杯に広がる"ブーツの底"を見た。 エバ渾身のドロップキック、"エキゾーストミサイル"がラムの顔面に炸裂する。 ロープを越え、リング外のはるか遠くまで吹っ飛ぶラム。 その体は青空駐車されていた誰かさんの軽自動車に勢いよく激突した。 フロントガラスが砕け散る。 「やったーっ!!!」 喜びに破顔するイリアたち。 別の意味で破顔するマッジオ。 「うあああ俺のブルーレオポン号ッッツ!!?」 「痛ェ‥‥‥痛ぇよおお‥‥‥!」 道路上に転がるラム。その横に、いつのまにかシルバー山田が来ていた。 「!?」 「これよりリングアウトカウントを取る!20カウント内に戻ればまだ 試合続行とみなす!よかったネ。 ワァァ〜ン!ツ〜〜ゥ!、スリィ〜〜ッ‥‥‥ ほれ、ゆっくりカウントしてやってるこの親心を察しろ!」 「もう‥‥‥ボクの負けでいいでちゅ‥‥‥」 ラムの心は折れた。 |
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