父の肖像


さあ、偉いことになった。
未確認の歩行兵器が英国軍事基地で大暴れしているのだ。
この大ニュースは、すぐさま全世界へ知れ渡った。
無論、暦にも。
「・・・・・・・リアルロボット、ですか。おもしろい。」
暗闇の中に、機械の駆動音やモニターの焼け付く音が聞こえた。
それと、二人の男女の話し声。
「無理をせぬよう、ほどほどにやってきて下さい。」
「はい。」
「僕の助けは・・・いりませんね。」
「無論。」
どでかい機械の稼動音がした。

「だああああ!あぶねっ!」
真上を砲弾が飛んだ。
今、向かっているのは即席司令部のテント。
今いるのはそこにつうじる道路。
ここからでもあの三本足がはっきりと見える。
相手は重装甲の上に、戦車砲と機銃をもっている。
プロトがかなう相手ではない。が、一応は親父に聞かなきゃならん。
建前は平和維持軍だし。
テントに駆け込んで、
「なんか手伝うか?」
「ないっ!こんなもの我ら英国特殊空挺隊で充分勝てる!
 壕に入ってるか、避難していろ!」
「わかった親父。」
父の願ってもない一言に、プロトは走り出した。
さっきまでの道路を逆走して、一目散に出口に走る。
夢中になって走る。
夢中になりすぎて、真後ろから追ってくる三本足に気付かなかった。
銃撃と軽い破裂音がした。
反射的に伏せて、ふりむくと、亀のようなずんぐりとした図体の、
でかい歩行式戦車がいた。もっと簡単に言うと、ロボットだ。
『みつけたよお、あの女の作ったサイボーグ!』
三本足からスピーカーで声が聞こえてきた。
女の声だ。
『自己紹介は必要ないね。あたしらはあんたをぶっ壊しに来たのさ。
 悪く思うな!』
『へへへっ!踏み潰してやるぜ。』
「・・・・・なんだ、物騒なこと言ってるなあ。
 ぶっ壊すだの踏み潰すだの、こえーこえー。危ない人かあ?」
・・・・プロトには緊張感がまったくないようだ。
『・・・・あんた、今の状況分かってんのかい!?
 あたしらはねえ、もとはあんたの組織にいたんだよ。
 けっこう優秀な技術班だった!
 ところがねえ、あんの女が出てきたおかげでお払い箱にされたんだ!
 だから逃げ出して、今までパワー貯めてたのさ!』
『ようやく最近こいつができたからなあ、あいつの作品に、
 かたっぱしから復讐するんだ!まずはお前からだ。』
『・・・・ま、こいつも借金で作ったんだけど・・』
『よけーな事言ってるんじゃないよ!』
逆恨みじゃねえか、と、プロトでも分かった。
要は自己中のあつまりなんだな。
こういう連中とは・・・・・
「つきあいたくないっ!」
百八十度体を反転させて、プロトはホバーダッシュした。
スーツのズボンが少し焦げた。
奴はあわてて戦車砲を撃ってくるが、狙撃手の腕が悪いらしく、
大はずれ。
第二弾も、ボール。
「なにやってんだい!」
「こ、こいつがちょこまかと・・・・!」
相変わらず飛んでくる砲弾。
けど第三弾もボール。外角にそれている。
この調子なら振り切れるか・・・・・・・?
「うおっ!」
今度は横から砲弾が飛んできた。
イギリス軍の戦車が撃って来ているのだ。
しかし、こっちのほうもあの三本足に当たる気配はない。

「ちっ!面倒だね・・・
 ポルカ!ボルカ!あの戦車と、ついでに後ろのテントぶっ壊しな!」
「はい、アネサン!」

きりきりと音を立てた砲塔が、戦車に向けられた。
一発の砲撃音が唸り、瞬間、英国の戦車から火柱が上がった。
続いて狙うは真後ろのテント。
さっきプロトが親父に自分は何をすりゃいいか聞きに行ったテント。
あそこにいるのは、
「親父!」
砲撃音がもう一発なった。


 


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