父の肖像


ホバー移動しながらプロトが見たものは、
ぐちゃめちゃに粉砕され煙を上げたテント。
一瞬、脳裏にあの親父の顔が浮かんだ。だが、すぐに思い直した。
「・・・・・・ま、平気か。」
だって、ねえ、うん。
「殺しても死にそうにないもんな。あの親父は。」

もろに大砲を喰らって瓦礫の山と化した即席テントの中には、
瀕死のもののうめき声や必死でもがく人影が見えた。
しかし、その中に、一人元気そうに座る者がいた。
プロトの父、バーナード・ガルベット少佐である。
「しょ、しょーさー・・・・なんで元気なんすか?
 普通、ぼろぼろになりますよ、戦車砲の巻き添え食えば。」
バーナードの横で、ウィリアム下士官が悲鳴を上げるように言った。
だが、バーナードはけろっとして、
「親父譲りでとてつもなく丈夫なんだ。
 私も、そして、息子もな。」
そう言いつつ、ロボットに追われる息子を見つめた。
「・・・・人間じゃないね。」
という、ウィリアム君の泣き声が聞こえた。
だが、バーナードの耳にはそれは入らなかった。
あのロボットは、自分の息子を狙っている。
その考えで頭がいっぱいだったからだ。
息子はなにをしているのか、何故、あんなわけの分からん物に、
追われる身なのだろうか。
不肖の息子でありながら、心配は心配である。
「ま、私も不肖の親父だが・・・・な。」
などと呟きつつ、さらに遠ざかるロボットの後姿を見据えた。
「しょーさ・・・・おれ軍隊やめていいですかあ?」
「退職金は出さんぞ。」

熾烈なサイボーグと多足ロボットとの鬼ごっこは、
いまだに続いていた。
「こんのヤロウ、おとなしくしろお!撃っちゃうぞ大砲!」
「かまうこたあないよ、撃っちまいな!」
至近距離から砲弾が飛んでくる。
真横をかすめて道路にぶち当たり、アスファルトを吹き飛ばす。
バルカンが並木をなぎ倒し、ロボットの
(レイファーガほどではない)巨体が周囲の非常線や車両を弾き飛ばす。
いい加減、プロトも疲れてきた。
「・・・・声からすると、人数は三人。連中の親玉が女で、
 子分は男二人か。ヤッター●ンの悪役みてーだな。」
これで、あの親玉の名前が「ドロ●チョ」とかだったらできすぎだ。
子分が「ボヤ●キー」と「ト●ズラー」ならなおさらだ。
・・・・・・このネタが分かる人がいるんだろうか。
「どわあ!」
などとくだらない事をぼやいているうちに、最初の入り口にやってきた。
門番は避難している。
プロトは、ワイヤーランチャーでフェンスをぶっ壊すと、
三本足を基地外へと誘導した。

「うっし。」
基地が見えなくなってから、
突然、プロトは立ち止まってホバー移動を止めた。
三本足に向き直って二、三歩距離をとる。
『なんだい、逃げるのはおしまいかい。』
砲口が、プロトに向けられた。
だが、プロトは平然と立ち止まったままだ。
『・・・・・なんか辞世の文句はあるかい。聞いてやるよ』
ひじょうに高慢な女の声が、三本足からスピーカーで聞こえてくる。
「おまえら、確かにくいのはあの女だって言ったよな。」
『ああ、言ったよ。』
『だからあの女が作ったお前に復讐するのさ!分かったか!』
「その女って言うのは、現九月か?」
当然、とでもいうばかりに、三本足は不器用に頷いた。
プロトは、とてつもなくイジワルににやりと笑った。
「知ってるか、今、あの人が作ってるのはスーパーロボット、
 お前らが乗ってるのはそれに対してリアルロボットだよなあ。」
『ああ、そうさ!』
「ということは。」
『ということは?』
鸚鵡返しに三本足の中の連中が聞いた。
「お前らのそれはあの人の作ったスパロボに対する立派な、
 挑戦、ということになるなあ・・」
不意に、遠くから爆音が聞こえてきた。
次第に爆音が近づいてくる。
空の彼方に、小さな人影のような物が見えた。
それは、だんだんとこちらに迫りつつあった。
『ぎ・・・ぎ・・・』
『うわ・・・・・うわあ・・・!!』
スピーカーを通して、連中の恐怖に満ちたうめき声が聞こえてくる。

それ、は、空から降りてきた。
それ、は、巨大であり、金属質な姿をしていた。
それ、には、大きく「9」の文字。

「来た来たきましたよお。」
それ、は、九月の最高傑作とも謳われる巨大なロボット。
「レイ・ファーガ」そのものだった。


 


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