悪闘L&A


PHASE 5「KU.RO.YU.ME(中)」

「そ…彼だよ」
『彼』。
意味ありげなトガイのそのセリフに口を挟んだのは壮介。
「さっさと言えっつの。誰なん…おわっ!!」
「君は喋るな」
思わず塊が飛んできたので、ギリギリまで気づかなかった

それでも避けきった。
トガイの鋭意なつけ爪だ。
「…話を戻そうか…彼ってのは…僕の主でもある人…
偉大な計画者…」

ザルゴスだよ

「ザルゴス……!」
「まさか…」
二人の顔がひきつるとともに、以前の忌まわしい記憶が
蘇った。
あの忌々しさ。
あの恐怖。

そして…あの痛み。

「おや………?恐いのかい?」
ザルゴスという言葉に、しゃがみこみ、頭を抱え込み、
身を震わせている少女が一人。
麻宮アテナ。
(ザル……ゴス……そんな……あたし恐いよ……)
「アテナ、恐がらないでよ」
脅える彼女を落ち着かせるリリス。
「……も……い………」
だが、リリスの励ましも、今のアテナにはなんの
得にもならなかった。
それにリリスもザルゴスに痛み、苦しみを味わわされ、
本来は脅えてなければならない少女の一人。
少し脅えていたのかもしれない。
「我慢強いね。まったく」
リリスのそんな心情を見抜き、トガイは鼻でハンと
リリスを一笑いした。
「…そんなんじゃないっ!!」
やっぱり、口では強がるが、心では恐い。
やっぱり、あの恐怖がある。
「あっと……自己紹介がまだだっけ。ぼくは」
「うおおおおおおおお!!」
一人ザルゴスの恐怖を知らない男、壮介がトガイにむかっ
てゆく。
「…うお…っ」
その進撃は、さらりとトガイによって止められた。
あの爪で、右胸を刺して進撃を止めたのだ。
血が止まらない。出てゆく、流れる。
「ひとの自己紹介は聞くものだよ。
僕は『ザルゴス、天地降臨の四』のひとり、
『鴛魔の師のトガイ』というんだけど」
そういうと、彼は壮介を貫いていた手を抜きとった。
壮介を二人のもとに投げ返すという条件つきで。
「……あぐ……ああああ!!」
さっきの『斬る』ことよりも、今の『突く』ことのほうが
はるかに痛いのかもしれない。
地面に投げ捨てられ、壮介はゴロゴロとのたうち回る。
「壮介!!」
リリスは転がりまわる壮介を急いで庇う。
「くっははははははは………のたうち回ってる、
のたうち回ってるよ……無様だね……あっ、ははははは…
……………」
そんな様がトガイはたまらなく好きだった。
しかし。
「……今のも『おつ』だけど……」
一言呟くと、自分の髪をくしゃりと握り、
ある女をトガイは見た。

何に脅える必要がある?

恐がるな。楽になれ。

楽にナッチマエヨ。ナア。

ラクニラクニラクニラクニナレヨォ…
            ☆
雨と雷という、トガイにとっての伴奏が強さを増す。
降りしきる豪雨、落ち止まない轟雷。
「ふふ……」
トガイの真の惨劇、もとい、
パレードが、今始まろうとしている。
(悪魔…恐さ…怖さこわさコワサ……嫌だ……
あたし恐い……)
膝を地につかせ、頭を押さえ、体を小さくし、
目を閉じ、耳を塞ぎ、恐怖から逃れようと……いや、
逃げている少女がいた。
体をうつつめたいもので、心もカラダも
冷たく濡れそぼっていた。
しかし……本当の恐怖はここから始まるのだ。

彼女に近づくピタピタと水を踏む音。
黒い気配。
そして……生臭さ。
血が語る何か。
            ★
「ううっ……が………は……」
雨に打たれる中。
「壮介、だいじょうぶ……」
「あいにく……イエスとはいえねぇな。おまけに……
変なこと仕込まれた気もするし」
傷は特に中に深く、雨がよく染みる。
ちなみに壮介の言う『変なこと仕込まれた』と言うのは、
悶えるということ。
そんな壮介にリリスが小声ながら話しかけた。
「ごめん……」
「……あ?なにがだよ……」
「……治療……できなくて」
残念なことながら、リリスは平和をもたらす力はあっても

治癒の力は持ちあわせていなかったのだ。
だけど。
「あんま気にすんな。そう責任感じすぎてんと、
お前禿げんぞ」
もう、壮介はさっきまでの非常さを完全に消し、本来の
性分、暢気さ、大ざっぱさを取り戻していた。
「……壮介……」

俺はもう迷わないさ。

「……さっきと変わったね。ぶきっちょに。
でも、ありがと。」
「謝りなさんな。怪我の関係で、本来謝らなきゃ
ならんのはこっちだし」
            ★
だが、そんなことは『こっち』の『地獄御代』には
関係ない。
関係ない。



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