「欺く月」
第3話
「漂さん!!早くっ!売りきれちゃいますよ!」
「ちょ、ちょいと、もうちっとゆっくり走ってくれんかね!響よぉ!」
颯爽と駆け抜ける風、ぎりぎり視界に入るのは二つのおさげ。
眼で追うのもやっとだが、その後を足を絡ませながら走る桃色の浴衣の男が追っていた。
「なに言ってるんですか!漂さんこそもうちょっと早く走れないんですか!?」
「おいお〜い。無理言うなよ〜、こちとら二日酔いで頭いてぇーんだわ」
「それは遅くまで遊郭で遊んでるからでしょ!自業自得です!」
息切れに混じって漂は呟いた。
「大体、約束なんかしてないだろうに・・・」
「黙って走ってください!」
少女の耳はどうやら地獄耳だったようだ。
観念したかの様に彼は息を切らして駆けて行った。
!?
不意に漂は立ち止まった。その事に気づかず響はあっという間に見えなくなっていった。
「・・・お前さん、何モンだい?」
気づけば、漂の額に光っていた汗はいつのまにか冷や汗に変わっていた。
「今の御時世、キリシタンがどうのってこたぁ言わないが、、、ちぃとばかし派手すぎるねぇ・・・。」
明らかにおかしな格好をしている男。そう、一つか二つほど昔のキリシタンの格好だ。目が痛くなるような色彩で身を包んだその男。
「この時代に・・・波が来る。過去と未来が交錯する。しかし、誠に波乱は1世紀後ぞ。ここで食い止めなければ、話にもならぬ」
「お前さん・・・、もしかして天・・・」
「すみません!『いちご大福』ありますかっ!!」
自分でもびっくりするくらいの大きな声が出て、響は少し頬を少し赤く染めた。
「ごめんねぇ・・・たった今売りきれたとこなんよ。ほら、あのお侍さんが3つほど買って、それで終い」
「え〜......、そ、そうですか」
「甘ェ!なんだこりゃ!!」
心臓が止まるかと思うくらいの大きな声で響は思わず振り返った。
「いくら菓子でもこりゃねぇぜ!珍しいもんがあると思って食ってみたはいいが・・・」
きょとんと立ち尽くす響に気づいたその侍は響のお目当てがなんである
か察したようだ。
「・・・あぁ、すまねぇな。あと、1つあるが、食うか?」
「えっ!いいんですか!?」
途端に響の瞳が喜びの色に変わる。普段は気丈な彼女もやはり一人の若い娘、こういう菓子には目がないのだ。
「おや?お嬢さん、それは真剣かい?」
侍は響が大事そうに抱えるその刀を見て訪ねた。
「え?あぁ、はい。これは、父のくれたものなんです・・・」
「そうかい、・・・だがぁ、そんなもん振り回してっと、怪我するぜ?」
そういうとその侍は「がっはっはっ」と豪快に笑いながら去っていった。
「・・・?なんだったのかしら」
すると後から不意に声をかけられた。
「あんた、あのお侍さんの知り合いかね?ちょうど良かった、なら大福3つ分の代金、お願いできるかね?」
「え!?」
響はいちご大福をおもわず落としそうになってしまった。
眼の錯覚。・・・そうとしか考えられない。
立ちすくむ漂にはそう思うしかなかった。そこにはキリシタンの姿は無く、あるのは人ごみの中から見える『えれふぁんと』という動物だけだった。
「なんだったんだ、あれぁ・・・」
「あ!見つけましたよ!漂さーん!!!」
平謝りする漂とすごいけんまくで捲くし立てる響。
人ごみの中におかしな格好をした、赤髪の男がいることを彼らは気づく事はなかった。
『がやがや』という雑踏の声に混じって、微かに聞取れる声。
「奴はどこだ・・・」
第4話 『悪の華』に続く
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