「欺く月」


第5話 「刃は何色か?」

「こう見えてもガキの頃は無理矢理本やらなんやら読まされてたんでね。だから、なんとなく覚えてたんでさ」
苦笑いだか、照れ笑いだか分からない表情で文献を漁る漂を尻目に私も同じ様に文献を読み漁った。
「しかし・・・、本当なのか?あの天草四郎時貞が、町に居たというのは」
「さぁね、なんとなくそう感じただけさ。確証はねーよ」
私は文献になにか今回の一件に関する手掛かりは無いものかと、調べまわった。
そうして・・・
「旦那ァ。なんかありましたかい?」
「・・・」
「・・・旦那?」
「そうか・・・なるほど。そういうことか・・・」



「お嬢さん。大変そうだね、手伝おうか。」にこにこと笑いながら、侍はそう言った。
しかし、クスリとも笑わずこちらを睨み返した。
「お気使い、結構だ」
袴に身を包んだ少女が肩に担いでるのは、白い胴着のがたいのいい男だった。白い袴にはおおよそ不釣合いなきれいな金髪の長い髪をなびかせて居た。親切心で言った一言がどうやらお茶を濁してしまったようだ。
「そうかい?じゃ、気をつけなよ」
そのザンバラ頭の侍は特に気にする素振りも見せず、去って行った。

少女はなにやらおかしげな機械を取り出した。それに向かってなにか話かけていた。
「○月×日14:00.
目標の日時に到達成功。同時に『リュウ』の運搬にも成功。これよりプロジェクトを開始する」
美しい顔立ちに頬の傷が目立つ少女は一直線にどこかに去って行った。

同刻―。
「・・・ふん、だから『オレ』なのか・・・。京ではなく」
「大きな力がぶつかり合うと、どうなるか。考えただけでも・・・」
「だが、それがなんだ?元の時代に戻ってやってもいいが。俺には殺さねばならない奴がいる」
「・・・はぁ、まだそんなこと言ってるんですか・・・」
「貴様もあまり俺に口だしすると殺してやる・・・」
「解りました。でも、殺すなんて言わないでください!せめて話し合いで解決してくださいね!」
「ふん、そんなくだらん約束はできんな」
庵はそれだけ言うと、”あの場所”へと歩き出した。
奴と出会った。”あの場所”へ―。

・・・そうか、まだ奴がいたか。あまりにもくだらな過ぎて忘れていた。オロチの力をなにか勘違いしているあの男。
また、ろくでもない事を企んでいるらしい。
…だからか。あの頭痛がまた出てき出したのは。
おもしろい、その茶番、乗ってやる。
この時代で片付けなければならないことを終わらせてからな。



再び、この剣の力を借りる時が来るとはな。
しかし、資料によればそれしかないらしい。炎を纏うこの剣、炎を操る拳、炎を駆るものには必ずどこか共通しているところがあるようだ。
それに月・・・。
彼しか居ない。あの月の光を思わせる太刀筋だけが印象に残る、あの男。
御名方守矢―。

そして、あの淫魔は必ずまた現れる。それも今夜―。

・・・・・・。


私は静かにその剣を抜いた。鞘からは炎が舞い散った。


願わくば、この過ちが繰り返さぬよう・・・



「天野。青龍の少年のいどこはわかるか?」
「ああ、楓ってのか、なんでも今は翁じいさんのとこに居るみたいだがね」
「すまんが、呼んでくれんか」
「かーっ!面倒臭ェよ・・・ってのも言ってられねーだよな」
「すまぬ」
「わ、私も行きます!漂さん」
「あいよ、着いてきな!」
「はい!」
「時はまだある、・・・しかし、まだ、何かが起こる・・・」
どたばたと駆けていく漂と響の去った後、『彼ら』の育った道場を調べる為、私は役所へ向かった。

一抹の不安・・・こんな事態の時になると、きっと現れる男。
願うしかないな・・・現れないことを。




「全く!信じられないね!こんな時に・・・」
「漂さん・・・。先を急いでください。ここは、私が・・・」
二人の前に立つのは白髪で肌は色黒で、黒い革命服のような服、そして雷鳴を纏う剣―。
「響・・・・お前さん、なに言ってるか解ってんのかい?」
黙って頷く響。
「解った。・・・死ぬなよ」
翁の元まで走ってあと半分ほどか、全力で疾走する漂は少し笑って呟いた。
「全く・・・、大きくなりやがって・・・!」

今夜、全ての歯車が重なろうとしていた。








「死が恐いか・・・?くっくっくっ」

「いいえ、父が教えてくれたもの。『死を恐れない心』を」









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