「欺く月」


第6話 「溺れる太陽」

2001年、某所―。
暗いその研究室ではなにやら訳の解らない研究が進められていた。
暗闇の中には蛍光色のような光が満ち、軍語のようなアナウンスが流れている。
『プシュー』
その研究所の扉が開き、中からは赤い軍服に身を包んだ男が入ってきた。その男の目は、なにかに取りつかれたかのような、『白目』だった。
「ユーリ、キャミィの様子はどうだ?」
「現状、16:30.目標との接触はまだのようです。同時に『リュウ』の意識も未だ回復していません」
「エネルギーの漏れはないか、ユーニ」
「はい、今のところサイコパワーの圧縮ポケットからの漏電はありません」
「ふはは・・・。順調だな。オロチのパワーに殺意の波動か・・・。その二つを手に入れれば時を行き来できる『地獄門』が再び開く。四神だと!?そんな迷信など信じるに値しないわ。必要なのは四つの異なる力。ふふは、ははは!早く帰ってこい!!城門を開けてなぁ!」




1864年―。


「楓よ。もういいじゃろ。修行は今日はここまでとしよう」
「はい!ありがとうございます!!」
凛々しく整った顔立ちに一つに結った髪。楓は翁老人にふかぶかと一礼をした。
「それに、今日は客人もいそうじゃしな」
「はい?」
『バシッ』竹林の中から人影が飛び出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・ひ、久しぶりだねぇ。楓くん」
「あなたは・・・天野さん?」
「ふぉふぉふぉ・・・」翁の目はこれから起こる波乱を見透かしているようだった
「とにかく急ぐんでね・・・、ややこしい話は後だ!どうやら『青龍』のあんたの力が必要なんだ!着いてきてくれんもんかね」



同刻―。
くたびれた道場。人の気配は無い。・・・が、すぐにそれは打ち消された。
冬も終わりの頃、陽はもう落ちようとしている。
「・・・来たか」
今日はもう二度目となるか・・・。この男との出会いは。
「貴様に用はない。死にたくなかったら、・・・消えろ」
「八神さん!・・・すみません・・・。嘉神さん・・・」
私は無意識に少し笑っていたようだ。それが彼の勘に触ったらしい。
「いい加減にしろ。貴様との遊びは、もう・・・終わりだ!」
凄い勢いで突進してくる奴に私は炎を纏った剣を抜いた。
途端に男の顔色が変わる。
「・・・貴様ァッ!何故、その剣を持っている!?」
「やはり・・・、お前は『草薙』の分家の者か。」
「分家!?ふざけるな!!俺の血は『草薙』とは全く別だ!」
「…ふっ、なるほど。『草薙』にそこまでの執着を見せるとは、どうやら文献の内容に嘘は無かったようだな」
「貴様・・・どこまで知っている?何者だ!?」
「『朱雀の剣』は後の『草薙の拳』となる。いや、正確に言えば、二つの呼び方があるといったほうが正解か」
「だから・・・私は嘉神さんの所へ導かれたのね・・・」
「時代が流れれば、その色に染まる。・・・君達の時代と私達の時代では呼び方が変わってしまっただけだ」
私は取り乱すこともなく続けた。あの男が現れるまで、
「もうすぐ、月の使者が現れる。月の陰者である君も彼に会いに来たのだろう?」
「・・・何が言いたい」
「後のことは知らん。残りの全ては君が知っているんだろう?アテナ」
「なにぃ・・・!?」
「・・・・はい・・・・」
時が重鎮の様に動きだした。庵の拳と、嘉神の剣が時と踊る様に燃え盛っていた。



「なにしろあんたの道場に行けって言われたもんでね!ちぃと案内してくれ!」
「は、はい!・・・でも、まさか兄さんと関係があるんじゃ・・・」
「おいおい!んなこた、わかんねぇってばよ。行ったら解ると思うぜ」
息を切らしながら全力疾走する漂と楓、道場に行く前に漂は行かなければならない所に一直線に向かった。
「悪いね!こっちも急ぐんだ」
「はい!付き合いますよ!」
しばらく・・・いや、時間にすればほんの十数秒だろう、一抹の不安と期待を抱え、漂はその場所に急いだ。

そして、そこに待ち構えていたのは・・・・















刹那だった―。


「うあぁぁぁああああっっっっっ!!!!!!!!」
いつもおどけていた。
いつも笑っていた。
いつも楽しけりゃ良かった。
そんな、漂が初めて取り乱した。
猛突進する漂を紙一重でかわし、刹那は言い放った。
「死を恐れないか・・・くっくっくっ。こいつの最期は、凄まじい恐怖でいっぱいだったぞ・・・。」
「テ、テメェェェェエエエ!!!!」
木刀を前に突き出し刹那の腹をめがけ突っ込んでいく漂、
『ドス』
鈍い音とともに漂が倒れる。刀の柄で漂のを叩いたのだ。
「くくく・・・・まだ死ぬなよ・・・。」
漂の視界に血にまみれて倒れている響が映った。
(すまねぇな・・・響。俺が守ってやらなきゃ、駄目だったんだよな・・・。許してくれねぇでいいから、立ち上がってくれ・・・。立ち上がって、楓と一緒に逃げてくれや・・・。なぁ、響・・・親父さんを探すんだろ・・・?頼むから・・・悪い冗談はやめてくれ・・・)
「天野さん!くっそぉ!」
風が舞い上がった。楓の髪が黄金に変わる。
「見せてやるぜ・・・!」
「いい顔だ・・・・。貴様の死は、何色だ・・・」

『ばたっ』

「!!?」


突然、刹那が倒れた。そして、その後に現れたのは、真剣を振り下ろした後の格好で微動だにしない・・・漂だった。
「よく斬れるぜぇ・・・お前の刀はよぉ・・・。なぁ、響・・・」
「ち、父の分身ですもの・・・あた・・り前・・で・・・す」
血だらけでひざまずく響の姿が漂のすぐ横にあった。
「天野さん!無事だったのか!」
「悪ぃ・・・、先行っててくれ。後から俺も追いつくからよ。おおまかな場所だけ教えてってくれ・・・」
「でも!」
「早くしねぇかっ!頼むからただ働きにしないでくれ」
「は・・・はい・・・、場所は・・・・」




楓が去った後、響を抱きかかえる漂が居た。
「大丈夫だ・・・、そうだ、そうやって・・・寝てりゃ、治るから・・・よ」
漂の背中からはおびただしい血が流れていた。刀の柄で殴られただけかと思っていた。
しかし、刹那はそんなに甘い男ではないことを今になって思い出した。
「まいったねぇ。こいつはちぃとばかし痛ぇや・・・」

漂は、ゆっくりと立ち上がった。
「よぉし、行くか・・・・」















            「医者に」















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