「欺く月」


第7話 「月と炎と」

月が満ちた。

風が・・・吹いた。
そして、少女は静かに口を開く。
「・・・四神は、四つの力を司る者の総称。『朱雀』は草薙の炎、『玄武』は波動、『白虎』は闇の力、『青龍』は内なる人の力。
・・・八神さんが、この時代に導かれたのは、オロチの力を持っているから、―つまり、地獄門を開く鍵になる力を持っているから。
京さんではなく、八神さんなのはこの両方の力を合わせ持つからなんです。
この時代の人間では駄目な理由は、『地獄門』は一度塞がれてしまっているから・・・。
だから、後の人間でなければ開くことが出来ないんです」
庵は眉を一つも動かさず、聞き返した。
「ならば、この時代に俺をよこした理由はなんだ?その地獄門とやらをわざわざ開く理由はなんだ?」
「それは、・・・来るべき災いを防ぐ為・・・」
「まわりくどい言い方はやめろ。はっきり言ったらどうだ?オロチと殺意の波動が一つになろうとしている・・・とな」
黙って聞いていた嘉神がようやく開口した。
「なに!?殺意の波動!・・・実在すると言うのか!」
「ほう・・・知っているのか。」
「翁の話でしか知らんが、お前達の時代で、そんな事が起ころうとしているとはな。だが、地獄門は君達の時代でも開けるのではないのか?」
「・・・それは、駄目なんです。地獄門はもう二度と開くことはありません。この時代で完全に封印されてしまったから。けど!封印されて間も無い今なら、まだ完全に塞がりきれずに不安定なはずです!そこを攻めれば、もう一度だけ開ける事が出来る・・・」
「地獄門を開けば、災いを防げる・・・か」
「はい・・・。もう一つのオロチである八神さんがその災いの反動で、再びオロチの血に暴走しない為です。オロチを滅ぼすにはオロチの申し子である八神さんの助けが必要なんです。でも、八神さんがオロチに操られることがあれば・・・」
「終わり・・・というわけか」
「ふん。ふざけるな。俺が二度もオロチに操られるとでも思っているのか。とんだ茶番だ。ルガール一人ごとき、殺すのは訳も無い」
「でも!!八神さんの頭痛の理由はなんなんですか!?ルガールさんに反応している証拠じゃないですか!?」
「なんだと!・・・貴様・・・!!」
あきらかに庵の瞳の奥に動揺の色が見られた。
そう、・・・分かっていたのだ。このままではもう一度、「自分が自分でなくなってしまう」と・・・。
「本当はリュウさんにもこの時代に来てもらうつもりでした。でも、リュウさんはどこにもいなかったんです・・・。だから、大会も押しているこの時期に八神さんだけでも来てもらうしかなかったんです!」
「・・・大会?ふん、『ミリオネアファイティング』のことか。あの茶番格闘大会がどうした?」
「ルガールさんがエントリーしていないんです。どういうことか解りますか?」
「・・・別の目的がある。か」
「ここでいくら時が経っても、2001年に戻ったら大会の3日前に戻ります!残りの力を持つ人をどうにかして探して地獄門を開かなければならないんです!」
「なるほど・・・そういうことか。ならば、私も手伝わなければならないようだな。・・・八神、といったな。これを使え」
嘉神は『朱雀の剣』を庵に手渡した。
「・・・なんのつもりだ」
「これから来るお前の『待ち人』は、丸腰とは決して刀を振らない。その剣を使うかどうかはお前の自由だが、それを持っていれば、戦うことなら、出来るはずだ」
「・・・ふん」
ひったくるようにその剣を手にした庵。
そして、風が止まった。







「・・・今宵はいつになく賑やかだな・・・」






その男・・・御名方守矢は水面に水が落ちるように、現れた。
「貴様・・・やっと現れたな・・・」
「ほう、己の器も知らぬ朱雀の男か。」
「朱雀・・・?くくく、よく覚えておけ、」
「・・・?」
「貴様を殺したのは『八神 庵』だ!」
月を背中に、二つの刃がぶつかった。浮世絵を見ているかのような美しい光景だった。
「八神さん!やめて!!そんなことしにきたんじゃないんですよ!」
言うが先か、嘉神がアテナを制した。
「アテナ・・・、よく見ておくんだ」
「え!?」
「この勝負、どちらが勝つにせよ、あれが『己に勝つ者』の姿だ」

「おぉぉっ!」
『ガキン!』
「ぐぅう・・!」
重なる二つの影、振り下ろす度に横切る風、そして、二つの月。


月は二つもいらぬ。闇に染まる空はそう呟くかのように黙って二つの宿命を見守った。

「どうしたぁ!」
燃え盛る月
「見えまい!!」
冷たく冷えた月


そして・・・・玄武。






『ジジ』
「19:22.
ターゲット『ヤガミイオリ』発見。これより作戦を実行する。
圧縮ポケットのサイコパワーにより、『リュウ』を殺意の波動に覚醒する」
闇に重なる二つの影の外で、新たなる運命が目を覚まそうとしていた・・・。




















         「・・・我、拳を極めたり・・・」











第8話 「地獄の番人月見て笑う」に続く
第6話 「溺れる太陽」に戻る
図書館に戻る