「欺く月」
第9話 「廻る歯車」
朱雀の剣は・・・私の手元に無い。
ふ・・・。こんなところで『剣士』としての実力が問われるとはな。
しかし、多勢に無勢・・・。気は進まないが、仕方あるまい。
「フゥー・・・フゥー・・・グォォオ・・・」
八神はずっとうつむいたままだ。完全に目覚めるのはもう時間の問題のようだ。
そして、地獄門の番人・・・刹那。
しかし何故、開いたのだ?アテナの話を聞くと、まだ面子は揃ってはいないはずだ・・・。
波動と闇の力、それに内なる力。
当初は青龍の少年の力のことかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
『この時代の人間では門を開く事はできない。』・・・と、言っていた。
「くくく・・・もっと怯えた顔を見せろ・・・」
どうやら、ゆっくり考えている暇は無さそうだ。
刹那が鷲に持たせた鞘から刀を抜いた。途端に太刀筋に合わせてびりび
りくるような邪念の雷鳴が響いた。
「お前らと違ってな・・・、俺の太刀には型がないんだ・・・」
全員は構えたまま動かない。いや、動けない。
みんなは知っている・・・。
『この男は死なない』
その事実、しかし、暫く動けなくなるくらいのことなら出来るだろう。
「くくく・・・見えるぞ。お前等の考えていることが、」
「そこをどけぇっ!兄さん・・・大丈夫だよね・・・」
楓が開口一番独り言だか怒声だかどっちとも取れる声をあげた。
「・・・。みんなの為に・・・戦わなくちゃ・・・」
そう言ったのはアテナだった。・・・恐いのであろう。よく見ると小刻みに震えていた。
それもそのはずだ。こんな男は今だかつて遭遇したことなど無いだろう。
死の匂いしかしない、『死神』に―。
「来るがいい・・・・。まとめてでも構わんが?」
「型がねぇ?悪いが俺の剣も我流でね。あんたと同じだ!」
どこからともなくそう聞こえると一陣の風が渦を巻いて凄まじい勢いで私達の目の前を通り過ぎ、刹那の元へと向かっていった。
しかし、刹那はそれをいとも簡単に払ってのけた。
「訳あって、助太刀するぜ。俺は覇王丸、侍だ」
「な、何者だ!?」
「闇の力、いるんだろ?ついでに波動も連れてきてやったぜ」
刹那が呟く・・・
「いいだろう・・・。アンブ・・・ふん、天草の使いか」
「聞こえが悪ぃな。俺は強者と戦いたいから奴に協力してやってるだけだ。どうやら、その辺の強い侍とは闘り尽くしたようなんでな」
覇王丸と名乗るその男は力まかせに刀を構えた。その傍らには異人の少女と、白い胴着の青年が倒れていた。
「!!?・・・残念だ、どうやら全員を相手している暇はないらしい・・・。お前等よりもこの男の時代の人間の方がいい恐怖をくれそうだ・・・。俺も一緒にいくことにするか・・・くくく・・・」
「!!!」
『ごぉぉぉお』という凄まじい轟音とともに空間に裂け目が生じた。
「ほら、くれてやる」
刹那がその出来事に気を取られている私達に不意になにかをした。
途端に雷鳴に縛られ、私達は誰一人動けなくなってしまった。
「くっ!こんなとこでしくじるなんてね!なっさけねぇ!」
「兄さん・・・!」
「こんなところで終わる訳にはいかないのに・・・」
「ここまで・・・か・・・」
刹那は笑いながら私達に言い放った。
「勘違いするな・・・・。旅立つ前に、もう一人だけ・・・遊んでやる。いい死に方を期待しているぞ・・・」
「おい!てめぇ!俺と合わせやがれ!こんな時代に飛ばされてまで収穫なしじゃ!収まるもんも収まらねぇ!!」
「青龍となら相手に不足はないだろう!僕と戦えぇ!」
「くくく・・・、誰とでもいいぞ・・・。」
ここで八神が覚醒すれば、もう終わりだ。
相変わらずおかしな周期で肩を上げながら息をしている。
「おぅい、その闘い、立候補したい奴がもう一人ばかしいるんだが・・・」
不意にこの場の空気に似つかわしくない陽気な声が響いた。
「天野さん!!良かった。無事だったんですね!」
「ん?なに、そんなにヤワにゃぁ、親が作ってくれなくてね。どうやら平気らしい」
「お前か・・・死を彩りたい奴は・・・」
「ま、そうしたいのはやまやまなんだが・・・、どうやらそうもいかなくてね、先客がいるんだわ」
にやりと笑う漂の背後から現れた影の主は
響だった。
「ほう、お前か。残念だがお前にはもう興味はない。せっかく拾った命は大切にしろ・・・くく」
「・・・私は・・・」
「?」
「自分の死は恐くなかった・・・。一番恐ろしいのは他人の命を奪うこと。それが恐かった・・・」
「・・・そうか。それがなんだ?」
不思議な光景だった。
さっきまでは、月を舞台に舞っていたのは守矢と八神だったが、今、月に一番似合うのはこの物静かな少女の方だった。
「言い訳じゃないけど・・・。貴方は・・・
死なないんですってね」
漂が口を挟んだ。
「って、ことは旦那、どういうことか、解るかい?」
刹那は黙ったままだ
「・・・響、言ってやれ」
「おもいっきり闘れる!」
響が構えたと思った瞬間、彼女の手元から刀の姿が消えた。
同時に黒い血が空高く舞い上がった。
「ぐっ!・・・お前!!」
刹那は胸を押さえていた、そう、この一瞬の間に刹那は斬られたのだ。
「父さん・・・見ていて・・・。私の、居合を!」
刹那の太刀には型がない。つまり、我流で刀を振り回すだけの形だ。
居合との相性は最悪といえるだろう。
「くくく・・・、猫をかぶっていたというわけか。いいだろう・・・望みどうり殺してやる!」
刹那は刀を振りかぶった。
「消えろォォォォォォオ」
響の姿は刹那の背後にあった。一瞬の出来事で誰一人目で捉えた者はいないだろう。
まさに刀を鞘に納めようとする所だった。
「・・・?」
刹那自身もなにが起こったのか解らないような様子だった。
「神気・・・・発勝!」
「!!ぐぶぅっ!」
響が刀を鞘に納めた瞬間、おびただしい血が空に舞い散った。
「こ、こんな・・・馬鹿なことが・・・」
最後の力を振り絞るかの様に刹那は刀を振りかぶった。
しかし、私達に見えたのはそこまでだった。
唯一、彼女の呟く言葉だけが耳を駆け抜けた。
「その刃は活かす為に有り。殺めるは人を惑わす邪の心。
我、万人救いしものならば、幾度の屍乗り越えん。
ここに有るのは悪絶つ刃、是、即ち・・・」
響の髪とめの紐が千切れ飛んだ。夜風と共に長い髪がなびく。
「 死を恐れぬ心也! 」
刹那は・・・完全に動かなくなった。
死んではいない・・・そのことだけは誰の目にも解った。
ふふふ・・・私もやきが回ったものだ。こんな少女に本物の居合を見せられるとは・・・。
刹那が倒れたいま、私達を縛る力は当然ない。自由に動けるようになった。
楓はいそいで守矢のもとへ駆け寄った。どうやら、守矢の方も命に別状はないようだ。
問題は・・・八神。
相変わらず、動こうとはしない・・・。
まだ、なにかが起こる。最後にとてつもなく大きなことが。
「響っ!」
その声に私は振り返った。響という少女が青い顔をして倒れている。
「だから無理するなっていったじゃねぇかっ!ばっかやろう!」
柄にもなく漂は泣きそうな顔になっている。
「どうしたというのだ!?」
「・・・本当は、血が足りなくて、おとなしく寝てなきゃなんねぇ身体なんだ。それを無理して闘いやがって・・・」
「まずいな・・・、このままでは命すら落としかねん。急いで医者に連れ・・・」
月が、雲に隠れた。そして、私の予想通りのことが起こった。
「もう終わり?もっと楽しませてくれると思ったのに。この時代の男達は情けないわね!ふふふ・・・」
「やはり現れたか!淫魔め!!」
「あら、また会えたわね。ふふふ、あれで終わらすには惜しい男と思っていたわ」
「なにが目的だ!貴様も地獄門か!?」
「ふふふ・・・そんなものには興味ないわ。私はただ、私を楽しませてくれればそれでいいのよ。だけど、それにはある程度のセッティングが必要じゃない?それでなければ、人間のあんなくだらない大会に私が出る訳ないでしょ?ふふふ・・・」
「くっ!所詮は物の怪か・・・」
「安心して、ちゃんと。ビックなゲストもいるんだから・・・」
「・・・なんだと!?」
「地獄門って、便利ねぇ・・・わざわざ、私達が疲れなくても時間を移動できるんだもの。だから、こんな現代ではありえない者も連れてこれるんだから・・・」
地獄門の裂け目をこじ開けるようにその男は私達の前に姿を現した。
「あ・・・あぁ!」
「こいつぁ・・・本物の”鬼”・・・!」
「さぁ、苦労して連れてきたんだから!楽しませて頂戴!あはははは」
まさに悪鬼。暗闇の中、赤い瞳が輝いていた。
「これを乗り越えて、現代に帰ってこれたら、遊んであげる!ふふふふふ」
淫魔はそれだけをいうと消えていった。
山積みの問題の一つがやっと解決したと思った矢先に・・・
鬼は凄まじい闘気と殺気を漂わせ、言った。
「我は拳を極めし者、己が無力さ、その身で知れい!」
最終話に続く・・・
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