世界規模格闘大会FOWについてのレポート

第五稿


今日は比較的過ごしやすい日だ。
こういう暗い文章を打つのにはこんな日が一番であると思う。

夕べのうちに警察が来て例の男を引きずっていった。
警察は、あの男は酔っ払いで、
それによる犯行であろうと言う見解を示しているが、
どうも私にはそう見えない。
私の借家は歓楽街から見て、住宅街の奥の奥にある。
酒を飲んでいたと言う事は歓楽街に行っていたと言うことだから、
もっと最寄の家に行ってもよかったのに、
わざわざ私の借家までやってきたのである。
どうも意図的な感じがしてならない、とくにあの六月刺青がひっかかる。
なんにせよ、調べてみたい。

そうそう、書くと言ってずっとさぼってた出場者の事を書いてしまおう。
なぜ、私がこれを避けていたのかと言うと、
どこからどう手を付けてくればいいものか悩む物があったからだ。
だが、いつまでものばしのばしにしていてはこれを読んでいる方に、
(一般人でないことを祈る)
失礼だ。
と、思い立ち調べてみたのはいいものの、
いや、出るは出るは出るは出るは。何十人いるんだ出場者が。
おまけにすごいメンバーである。これだけそろうと壮観だ。
一般人から裏の顔を持つ人間まで、思ったよりも格闘家の割合が少なく、
驚いている。
いやあ、これを調べていると本当に面白い。くせになりそうだ。
それでは、私がちらほらと見かけた、または興味を覚えた面々を、
書いていこう。

まず、驚いたことに、参加者に聖職者が混ざっていた。
これは事実だ。
和洋から集まっていると思われる彼らに、どんな目的があるかは知らない
が、ひじょうに興味をそそられる。
私が彼らを目撃したのは
私が、選手が泊まるホテルの清掃員としてあそこに潜り込んでいて、
ゴンドラに乗って外側から窓拭きの仕事をしていたとき、
部屋の中にシスター姿の女性を見つけた、なかなかの美人。
面白がってのぞいていると、ベッドの上にロザリオと、
・・・・・・・・・日本刀があった。それも血のシミが柄についた・・
おもわず、眼を背けすぐに右隣の部屋に目を向けると、
金髪の背の高い二枚目神父が、2mはあろうかと言う巨大な
十字架を軽々と肩にかついで持ち運んでおり、私は絶句した。
まあ、事なきを得たが、びびった。
何故、彼らがあんな物を持っていたのか、何故、彼らはこんな浮世離れ
した大会に参加しているのかなど疑問は尽きないが、これは追及しない。
なぜならあの神父は部屋の様子を見る限り彼は私の最も苦手なタイプ、
堅物なので。

また、とても強面な人間もプロレスラー含めて多々いる。
その中でもすごかったのは、おそらく中東系と見られる大男。
ものすごいドラ声で大笑いをしていた、が、その笑い声で、
窓が共振して、窓にひびがはいっていたのである。
ゴンドラに乗り部屋の外側から窓拭きをしていた私の身がすくんだ。
よく窓を見ると、すでに何回か張り替えた跡があった。
しっかし、すごい筋肉の男だった。あれにさわってみたいと思うのは、
私だけであろうか?

翌日、見るからに格闘家らしき青年を見て、私は胸をなで下ろした。
なぜほっとしたかと言うと、
FOWが格闘大会である事を今さらの如く思い出したからだ。
彼は薄い青の胴着を着ていて、背中に大きく友と書いてあった。
私と彼の熱血した目があうと、
彼は愛想良く手を振ってくれたので、私もそれを返した。
ところが、その時、ドアを開けて力強く女の子が入ってきたのである。
長い黒髪でG−ジャンを着ていたそのこは、
かすかにきこえた声から、ハーフと思われた。
それからはこの二人でべったべたと・・・・
いやはや、若い方はうらやましい、なにやら女性の方がすごい勢いで
言い寄っていたが、青年もまんざらではないようだ。
本当に、うらやましい。ので、早めに次の窓へ移った。

だが、私はこの部屋で異様な光景を目にする。
黒猫が一匹、ねこ缶を食っていたのだ。いや、黒猫ではない。
あれはねこ缶を自力で開けて食べていたのだ。
それも、人間の手で開けて!黒猫の前足が人間の手となって!
ただ、私が目をこすった瞬間には、その手は前足に戻っていた。
・・・・・狂った、と、本気で思った。一瞬だが。

夢中になって書いていて楽しくなって、
買い貯めておいたタイプ用の紙をきらしそうなので、もう止めにする。
天井裏は今日は静かだ。
今朝、水を置いておいた。一時間後のぞくと、もうなかった。
化け物でも二日酔いをするのだろうか。
そういえばいつの間にかあいつを化け物と呼ぶようになったが、
なにか名前をやろうと思う。
ああ、今日はとても気分がいい。有給休暇だし。散歩に出よう。
それでは、私が散歩中に何者かに襲われなく、生きている事を祈って。



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