トリプル・ディザスター

・・開始・・


「紐でひかれて、軍艦にー!あ、ぎゅうぎゅうづめに押し込まれえ!」
「十五のお、春でタマとえさあ!と、くりゃ!」
「かわいい、あんのこと涙のわっかれえ、と!」
こんな無人島で大宴会とは、非常識にも程がある!と、つっこむ人間が、
この場にはいない事を二人はよおおおく知っていた。
というわけで、プロトがなんとか船から運び出した酒と、
葎がとった獲物の丸焼きで、二人は島の中央の森林で、
エンジン全開の大宴会を始めた。
「いやー、はっは!久々だあ!火の通った食いモンは!」
と、プロトは蛙を口いっぱいに詰め込みながら、悦に浸っている。
「いや!この酒もじつに美味!洋酒は本当は趣味じゃないけど、
 いけますねえ!」
と、酒豪の葎も嬉しそうだ。
「プロトさん、でしったけ?大変ですねえ、大学も。」
「そうなんっすよ、いや、マジで。ドクター、仕事熱心なのは、
 いいんだけど、ここまでくると迷惑で!」
プロトは、自分は某大学の研究室から、ここに送られてきた、
研究員であると説明した。それで、ここで一ヶ月ほど、
ある生き物を探していた事も。まっさか、自分が暦だとは言えない。
「そういうお宅も!遭難して無防備で数週間はすごいですって!
 オレなんか、この防護スーツ着ててもやっとなんだから。」
「いや、慣れですよ、慣れ!
 砂漠のど真ん中に置き去りにされたこともあるんですから!」
葎は、新聞記者であり、海外特派員だと名乗った。
まっさか、自分が裏社会がらみの大会を追っていて、
秘密結社に狙われている身だとは言えない。
「あー!今日はいい日だあ!神様、ドクター様ありがとお!
 この、プロト・ガルベット、ここでゆっくり休養します!」
感極まったプロトが、大声で叫んだ。
この場合、ドクターとは三月の事だ。
これでひまわりがいれば、最高なのだが、それでも、
彼は本当に久しぶりの人に、非常に感動していた。
「今日はもう、寝ましょう。
 罠を仕掛けて置いたから、明日の朝には何かつかまりますよ。
 今度は、鳥がいいなあ・・」
「いいですねえ!あ、どうぞどうぞ、テント半分使ってください。」
「どうも、すいません。」
と、いうわけで、二人は寝る事にした。が、
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
眠れねえ。
さすがに暴れすぎたか・・二人の眠気はどこかに飛んでいっていた。
「・・・・・起きてますか、葎さん。」
「ええ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・飲みますか?」
「そうしましょう!」
こうして、やけくその酒盛りは朝まで続いた。
なんせ、無人島なので、止める人が一人もいなくて、二人とも、
やりたい放題だった。
月が傾き出した頃から、二人の記憶は欠如している。

トマホーク付きの駆逐艦、巡洋艦が十数隻ずつ。空母が三隻。
特殊部隊を詰め込んだ揚兵艦が三十隻に、輸送艦、補給艦、五十隻余り。
上空にはファントムの大編隊。さらに、ステルス爆撃機。
アパッチなどのガンシップが数百機、さらに、大型輸送ヘリ、
きわめつけは、輸送潜水艦。一隻につき戦車五十台搭載。
大げさすぎる重装備であった。ちなみに、これは序の口で、
まだまだ本国から戦力はでる。
タカ派の軍人、マルシュには喜ばしい事であった。
もっとも、これがRJHからの借り物であるという事実をのぞけばだが。
「ふふふ・・・見たか!わが国の力を!」
「我が社のです。」
一応、すごんではみたものの、ロットに一言で否定された。
「・・・・・・・・・クラナ島まであとどの程度だ。」
「三十分です!夜明けにはつきます!」
「各国メディアはなんと言っている。」
「暦の名を出したら、あっという間に支持し始めました。」
すべてが予定通りに進んでいる。
あとは、敵の殲滅あるのみ!
「島の沿岸からトマホークを放て。目標は島の砂浜だ。
 それから!暦の身の程知らずに、拡声器で投降を呼びかけろ!」
「は!」
ロットは、太平洋のど真ん中を進軍する三個師団を、
楽しそうな眼で見つめていた。
「いやはや、まさか初手からこれとは、驚きました。」
「ふん!我々のやることは、常に完璧に終わらせなければならない。」
マルシュは、握った拳に力を入れて、沈む月に向かい叫んだ。
「徹底的に!叩き潰すのだ!やつらを!海の藻屑にしてくれるわ!」

夜明け。
ひゅるるるるるるるるるるという、奇怪な音にプロトは目を覚ました。
瞬間、ものすごい轟音が響いた。
「ぎょええええええ!」
それは、二日酔いのプロトの頭にとてつもなく響き、
プロトは一瞬、お花畑を見た。
その後、また地獄が来た。
「我々は!A国軍である!島に立てこもるテロリストに告ぐ!」
こんなことを、さらに大音響でならされたのだから、たまらない。
プロトは、半泣きで、その場をもんどりうった。
だが、容赦なく拡声器による大声は続く。
「すぐに、投降せよ!おとなしくすれば、命だけは助けてやる!」
もはや、プロトの精神は限界だった。
我慢できずに森をでて、砂浜からその声の正体を探る。
水平線に、船影が見えた。
「どうだ!?」
そこから、大声は聞こえてくる。
「こ・・この野郎!ひまわり共もうるさいが、お前らそれ以上だ!」
「回答は何だ!YESか?NOか?」
しだいに、プロトの堪忍袋の尾が切れてきた。
二日酔いの人間は刺激してはいけない。恐怖と絶望が待っているからだ。
「いいかげんにだまれえ!」
プロトは、思わずエネルギーミサイル・・思念体による攻撃・・を、
最大射程でぶっ放していた。半円を描いて、思念体は船影に直撃した。
プロトは、鼻息を鳴らしてその場を去ろうとした。
だが、
日の出。
その光にさらされて、無数の航空機、軍艦、潜水艦の陰が映し出された。
それは、広範囲にわたって陣営を築いており、
水平線の端から端まで全体に行き渡っていた。
頭上を、哨戒ヘリが通り過ぎた。
また、爆音が轟き、無数の対地ミサイルが、プロトめがけて、
放たれた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない叫び声をあげて、プロトはその場を駆け出した。
数秒後にそこに数十個の火柱が上がった。
もう、二日酔いは気にならなくなっていた。


 


トリプル・ディザスター  ・・シマハモエテイルカ・・ へ
トリプル・ディザスター  へ
図書館に戻る