トリプル・ディザスター
・・厄災・・
| 「とにかく、です。ここで死ぬって言うのは、」 「腹立たしい。」 二人は、秒速で首を縦に振った。 今はいい、この穴(塹壕といったほうがいいかもしんない)に、 隠れているから。 「モビルスーツが欲しい。」と、葎は痛烈に思う。 小さい頃見た映画に出てきた、とくにあのドムっていうのが好きだった。 いや、こんな思い出に浸りきっている場合ではない。 とりあえず、息苦しくなって、葎は穴から出た。 プロトもそれに続く。 「・・・奴さん、ここの地形が分かりますかね?」 「・・どうかなあ。」 「どっちにしろ、私たちよりは詳しくないですよね。」 「そうっすね。オレたちゃここに数週間、自炊を・・・」 あ。 ようやく、プロトも気付いた。 地の利はこちらにある。これは・・これは・・ 「ここに誘い出せれば・・」 「なんとかなる!」 ようやく、希望が見えてきた、その矢先。 急に、視界が暗くなった。・・・・・・・・・・上になんかいる。 風が巻き起こって、葉っぱや砂利が空に巻き上げられた。 それは、葎が自衛隊にいた頃に見たもの。 武装ヘリコプター。通称、ガンシップ・アパッチである。 「おおおおおお!」 機銃掃射が始まった。 「まったく、まったく、なーんてことなんざましょ! あたくしの精鋭をテロリスト狩りに使うなんて、 あんのマルシュ将軍は何を考えてるんざましょおねえ?」 このやたらうるさい黒人のオバハンは、A国の大佐である。 こんなんが軍の要職についているとは・・世も末だ。 「それで?どうざますか?戦況は?」 「は!現在、捜索中のテロリスト二名ですが、 アパッチ29号と遭遇した後、アパッチごと消息を、 絶ちました。また、未確認情報ですが・・・」 「?」 「島の中央の森林地帯で、ジャミング現象が起こっているとの事で・・」 「ジャミング!?妨害電波が出てるざますか?」 問い詰められた候補生は、たじたじしながらも、調書をめくった。 「未確認情報です。あくまで。」 「ジャミングだと!」 「は!」 マルシュは、どうにも分からなくなった。 暦の連中はそんな装備まで持っていたのか、これでは、まるで、 実戦を想定しているようではないか。 「将軍閣下!砂浜に出たB班から通信です!」 「無線機をこっちに持ってこい!」 チューニングをあわせ、耳元に無線機を持っていった瞬間、 盛大な笑い声が聞こえた。 マルシュはおもわず目を白黒させた。無茶苦茶に変な顔で。 思わず、ロット含め周りの兵が失笑した。 「なにをやっておるか!きさまらあああ!」 「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!び、B班!しゅしゅ、 収容お願いします!あひゃ、あひゃ、あっひゃっひゃっひゃ!」 マルシュの怒号が響いた。 「アホかあ!」 「ガ、ガスでしゅ!毒ガスが!あっひゃっひゃっひゃ! ガスを吸ったらわりゃいぎゃ!あっひゃっひゃひ」 プチ。 唐突に回線が切れた。 ふと、心配になったマルシュは階段を駆け上がり、甲板に出た。 双眼鏡で砂浜を見る。 B班だけではない、A、C、D班もだ。皆、笑い転げている。 階段から、悠々とロットが上がってきた。 「・・・・戦争屋。」 「はい?」 マルシュの眉間のしわが、一センチは深くなった。 「イングリッシュでは、災いはなんと言う?」 「・・・ディザスター、です。」 「・・・・・・・・・・ディザスターか。」 その二人のディザスターにより、A国の特殊部隊が次々とやられている。 マルシュの理性も限界に来ていた。 プロトは、トランジスタラジオに、自分の思念波を送り込んだ。 たしか、九月に教わった。思念波は、電波にもなると。 結果は大成功。プロトの思念波は、見事に妨害電波となり、 ラジオを通して広まった。 その途端、追っかけてきたアパッチは、ふらふらとまるで 酔っ払いのように動き出し、地面に不時着した。 それから飛んできた対地ミサイルも、みんなとんでもない所へ、 とんでいく。 「さて、と、別行動をとっている葎さんはどうしたかね。 ・・・・・・・オレなんで説明台詞いってんだろ。」 葎は、流れ着いた初日に、不気味なきのこを見つけた。 マタンゴとか、漂流教室とか、そういうのに出てくる不気味なきのこ。 けど、食った。 笑い茸だった。 それを燃やしてその煙を吸っても、死ぬほど笑う。 特殊部隊の連中は、その煙にひっかかったのだ。 「さて、と」 葎は、自動式に弾を込めた。 「戦いはこれからだな」 |
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