トリプル・ディザスター

・・総力戦・・


胃が痛くなりそうだ。
ミサイルはジャミングでとんでもない方向へ飛んでいって、
何隻かの艦に当たった。
特殊部隊はガスマスクの効かない笑いガスによって全滅。
空爆用の武器弾薬は、補給艦にミサイルが誤爆したため、
ほとんどなし。
島の上空に行ってもジャミングでわけがわからなくなる。
胃が痛い・・・
しかも、敵はたった二人だったのだ。
これはマルシュにとって胃、以上に痛い。
テロリストグループだと思っていたのが、たった二人で、
なおかつその二人に特殊部隊がやられている。
自分の責任だ。これまでの戦闘が無駄になる。
イージス艦がシルクワームを撃ったとの報告が入った。
モニターに映るミサイルは、ぐるぐる旋回しながら、
しまいにはブーメランのようにイージスに戻ってきた。
イージス一隻大破炎上。
ブリーフィングルームは、大騒ぎである。
「航空部隊、応答なし!」
「イージス!イージス3番!生存者の確認を急げ!」
「特殊部隊、全員収容完了。笑い転げてます。使い物になりません。」
「戦車隊、上陸します。」
マルシュは泣き叫ぶような声で言った。
「戦車は失うなよ!」

キャタピラ音を立てて、一列になった戦車隊は砂浜を行軍する。
そこから、森に向けて砲を一斉射撃して、やつらをあぶりだすのだ。
「百二十ミリ砲、発射用意完了!」
「各車に連絡!移動しつつ撃て。」
砲塔が一斉に島の中央部に向いた。
「ッテエ!」
続けざまに数十発の砲弾が飛んだ。
それは、海にそれたり、森を飛び越えたりして、
結局一発も当たっていない。
「なにをしている、馬鹿者!」
「じ、自動照準装置がおかしいです!」
「なにい!」
突如、車体がガクリと揺れた。
「今度は何だア?」
「エ、エンジンが!」
機関士が悲鳴を上げたが、時、すでに遅し。
エンストを起こした、先頭の一台が急停止して、
後ろがつかえた。
連鎖反応を起こしてまるで、高速道路での玉突き事故のようになった。
「ばかやろー!なにやってんだ!」
「畜生、うごかねえぞ!」
「キャ、キャタピラが吹っ飛ぶ・・!」
闇雲に砲塔やキャタピラを動かして、とうとう一台が、
大砲を誤射した。
それは隣にいた戦車に直撃して、その爆風でその両隣が誘爆。
さらにその隣も、その隣もで、あっという間に戦車隊が壊滅した。

「ぐぎぎぎ・・・・」
「将軍!ジャミングの範囲が広がっています、また、風に乗って、
 ガスが広まりつつあります!」
「ジャミングの影響で、電子機器類がやられているようです!」
「ど、どんなジャミングだ!?」
「戦車隊!頼む、応答してくれYO!」
「ふざけてる場合か!」
いかん、いかん、いかん。
瀬戸際だ。このまま攻撃を続ければ、この司令艦もやられる。
どうするか、成す術がないではないか。
マルシュが死ぬ気で悩んでいると、甲板からロットが降りてきた。
手に、携帯電話を持っている。
「話がつきましたよ。」
「・・・・・・・・?・・どういうことだ。」
「U・S・ネイビーが協力してくれるそうです。」

どうにかこうにか、今まで生き残れて、葎はほっとした。
ガスにやられた奴らから、奪った自動小銃も三丁になった。
「順調だな。」
彼らは、知らない。このガスの症状は、この笑い茸をもう一口食べると、
たちまち治るという事に。
知らないという事は、敗北につながる。
それを知るために、葎のような新聞記者がいるのである。
「おや?」
夕べ掘っておいた落とし穴に、鳥が三匹入っていた。
「今夜は丸焼きだね。」
「そりゃあ、いい。」
「うわ!」
プロトであった。
ジャミングを流してそこらを歩き回って、かなり疲れたので、
葎を探していたのだ、
二人は、キャンプに戻ってきた。
そこいら中、重油くさくて、たまったもんではない。
「さあて、オレらもそろそろ疲れてきた。」
「・・・・そうですね。」
「ここらで、」
「終わりにしますか。」
けど、どうやって?という疑問が、二人の胸中にはあった。
軍隊一つをどうにかできるのだろうか。

「NASAの、新型宇宙服?」
「その通り。」
ロットは、さっき米軍と取り決めた事をマルシュに話した。
戦況が降着状態に陥っている事を話し、助けを求めた。
そこで、提案されたのが宇宙服である。
あらゆる電波や磁場の影響を受けず、機密性も抜群。
さらに、アメリカ製だけあって、とてつもなく頑丈。
迫撃砲ぐらいでは、ビクともしないという。
「そいつを特殊部隊員に着せて、彼らを捕まえるんです。」
「・・・ぐ・・わ、わが誉れ高きA国が、べ、米兵ごときに・・
 納得いかん・・・・」
「しかし、それが頼みの綱でしょう?事実、我が社の兵器は、
 歯が立たなかった。」
ま、こいつらの使いかたがなってないせいもあるのだが。
自惚れた戦馬鹿は、始末に置けない。
「ご考えは後でお聞かせを、ぼかあ、ちょっと用事が・・」
そう言って、マルシュを尻目に、ロットは甲板に上がっていく。
携帯電話を取り出して、電話をかけた。
「どうも、僕です。」
『遅かったじゃないか、戦況はどうだ?』
「いや、なに。A国の無能っぷりを、見せたいぐらい。
 それより、必要経費は確かにそっちもちですよね?」
『がめついな・・・まあ、いい。
 その島にいる葎純一という男を、徹底的に抹殺すればだ。』
「もちろんですよ♪それより、」
『なんだ?』
「そちらの人間が一人島にいるようなんですが。」
『ああ、どうせ下っ端のぺーぺーだ。新世界の、
 なんたるかも考えない男だ。必要ない。』
「つめたいですね、暦さん。」
『うるさい、今度、また一個大隊もってこい。必要になった。』
「はいはい、それじゃ。」
ピ!と、携帯電話を切る。
日が、傾き出していた。


 


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