世界最強に挑戦!


「もったいぶらないで答えろ! あんた何者よ!」
「1番、俺もその男の仲間」

 人差し指を立てながら、男が答える。

「嘘つけ! あんたがこいつらの仲間なわけないだろーがっ!」

 男の周りにぶっ倒れている男達を指差しながら、夏香が答える。
 どこからどう見ても、仲間割れから起きた状況ではないことぐらい子供でもわかる。
 続いて男は中指を立てた。

「2番、お前さんが下敷きにしたやつが教えてくれた」
「そんなわけないでしょーがっ!」
「チッ……引っかかってくれると思ったんだけどな……」

 つまらないといった感じで、男は口を尖らせる。
 すると、男は自分の左目の下に張っていた傷テープに手をかけた。

「なら3番、お前さんならこいつを見ればわかるだろ……」

 そう言って男が傷テープをはがす。
 すると、傷テープの下から何かがこすれてできたような擦り傷が現れた。

「っ!? その左目の下の銃弾のかすり傷は……」

 その傷を見て、夏香の頭にある人物の名前が思い浮かんだ。

「あんた……もしかして……」

 夏香がそこまで言いかけた時だった。
 突如、建物の外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「何!?」
「おっと、意外と早く動いたようだな」

 何かを知っているという表情で、男は窓の方を見た。

「ちょっと、なんでパトカーなんかが来るのよ!」
「別のところでこの取引を潰しておいてくれって依頼を受けたんだよ。わざと騒いだから近所の奴が通報でもしたんだろ?」
「信じらんない。あんた、何自分で自分の首絞めるようなことしてんのよ!?」
「だから、今から逃げるんだよ」

 そう言うと、男は夏香が先程開けた穴からフッと屋上に飛び移った。

「逃げ道作ってくれてありがとよ。じゃあな」
「なっ、待てっ!」

 遅れまいと夏香もすぐに屋上に飛び移ったが、そこにはすでに男の姿はなかった。

「逃げられたか……」

 完璧に出し抜かれたといった感じで夏香は拳にぐっと力を入れたが、何故かその表情は笑っていた。

「フ……フフフ……遂に見つけたわよ……噂の暗殺者『奇跡屋スレイ』……いや、『狩夜 軋琉』!」

 男の名をそう叫びながら、夏香は夜空を仰ぎ見た。

「私が必ずあんたを追い詰めてやる! そして……『世界最強の暗殺者』の実力、この私が直に確かめてやる! 覚悟しろーーーーー! ハーハッハッハッハッハッハ!」

 どこかの赤毛の男のような高笑いを、パトカーがやってくるまで夏香は続けていた。

    ※



第4話に続く
第2話に戻る
図書館に戻る