世界最強に挑戦!
4
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翌日。
朝っぱらから夏香は昨日会った男……軋琉の姿を探し回っていた。
しかし、その表情は昨日の夜とはうって変わって、半ば投げやりになっていた。
「あ〜……どこにいるんだろ……あいつ……」
軋琉を探し始めてはや3時間。
昨日会ってからゆうに12時間近く経っていた。
かつて自分が暦にいた時から、軋琉のことは聞いていた。
相手は世界をまたにかけている暗殺者、用心の仕方も並ではないはず。
すでにこの街から逃亡している可能性もあると、夏香は踏んでいた。
「やっぱ、昨日会った時点で勝負を挑むべきだったわね……惜しいことしたなぁ……」
そう呟くと同時に、腹がぐぅと鳴る。
「とりあえず、腹ごしらえでもするか。腹が減っては戦はできぬ、ってね」
夏香はそのまま、どこか食事ができるところでもないかと辺りを見回した。
すると、近くにオープンテラスのあるファーストフードショップを見つけた。
「あそこにするか、他にご飯食べられそうなところもないみたいだし」
そう言うと、夏香は小走り気味に店の方に向かう。
すると、夏香の目にオープンテラスに座っている人物が読んでいる新聞の記事が飛び込んできた。
新聞には、こう書かれていた。
『遂に始まる世紀の格闘大会『FOWvsNOB』。世界を舞台にした格闘技の祭典が……』
どこにでもありそうな新聞の見出しに、夏香は何故か見入っていた。
「そう言えば、昨日会ったあの男もそんなことを言ってたわね……『妙な格闘大会』って、これのことかしら? あの子なら速攻で飛びつきそうだけど、あいつが出ることはないかもね……」
「お前さん、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」
新聞を読んでいた人物が、新聞を折りたたんで、夏香に話しかけてきた。
そして次の瞬間。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
夏香は新聞を読んでいる人物を指差しながら叫んでいた。
自分の目の前で、新聞を読んでいた人物……それは紛れもなく自分が捜していた男……あの伝説の世界最強の暗殺者、「奇跡屋スレイ」こと、軋琉本人であったからである。
その叫び声に、周りの人間が一斉に夏香の方を向く。
しかし、そんなことなど少しも気にもしないといった様子で、軋琉はテーブル上においてあったコーヒーを一口すすると。
「よっ、また会ったな」
あっけらかんとした表情でそう言った。
あまりにもあっけない再開に、夏香はしばし呆然としていたが、はっと我に返ると、すぐに軋琉のところにつかつかとやって来た。
「あんた、こんなところで何してんのよ?」
「見りゃわかるだろ。新聞を読みながらコーヒーを飲んでる」
「いや、そうじゃなくて、何であんたみたいな奴がこんな公衆の面前で堂々としていられるわけ?」
「俺が堂々としてたら悪いか?」
「いいとか、悪いとかでもなくてね……」
完全に軋琉のペースで進む会話に、夏香は呆れたが、すぐに軋琉に向かってびしっと人差し指を突きつけた。
「とにかく、ここで会ったが100年目! 今すぐ私と勝負しろ!」
「やなこった」
「なっ……!」
あっさりと自分の申し出を断ってきた軋琉に、夏香は思わず前のめりに体制を崩した。
「……あんた、もしかしてビビってんの?」
「馬〜鹿、周りをよく見ろ。こんなところでやったりしたら、関係ない奴らまで巻き込むだろ。俺は場所を選ぶタイプなんだよ」
そう言いながらコーヒーをすする軋琉の言葉に、夏香も改めて周りを見渡した。
「ふ〜ん、あんたって結構フェアな奴ね。じゃあ、どこだったらいいわけ?」
「安心しろ、俺が後で案内してやるよ……だが、その前に……」
夏香の腹が、再びぐぅと鳴る。
「あ……」
「俺を探し回ってたんだろ? ここで腹ごしらえでもしておくんだな」
「なっ、わかったわよう……」
そう言うと、夏香は軋琉が座っているテーブルに向かい合わせになるようにどかっと腰を下ろした。
「ただし、私がバトルを一時休んであげる代わりに、ここの食事代、あんたのおごりね」
「随分と虫のいい奴だな、お前さん……」
初めて顔をしかめる軋琉に、夏香は早くも勝った気分でいた。
※
第5話に続く
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