世界最強に挑戦!


 それが、勝負の合図となった。
 言うが早く、夏香はいきなり軋琉に猛スピードで突っ込んでくる。

「……意外と速いな……」

 軋琉がそう呟いた時には、夏香はすでに軋琉の目の前まで迫っていた。

「まずは小手調べっ!」

 夏香がそう言った瞬間、軋琉の視界から夏香の姿が消えた。
 しかし、軋琉は少しもひるむことなく、右手をすっと自分の顔の隣に上げた。
 ガシイィッ!
 数コンマ遅れて、軋琉の腕に、夏香が背後から放った回し蹴りがぶつかる。

「いい蹴りだ」

 夏香の蹴りを受け流すようにして弾くと、軋琉は左手を目の前にかざしながら後ろを振り返った。
 ガツッ!
 回し蹴りを弾かれた夏香は、そのままかかと落としを出してきた。
 しかし、軋琉はこのかかと落としすらも受け流すように弾いた。
 2度の蹴りを弾かれたが、すぐに体制を立て直すと、夏香は体を翻して右腕を大きく振りかぶった。

「とぉりゃあっ!」

 勢いよく振りかぶった夏香のパンチを、軋琉は紙一重でかわすと、夏香の勢いに合わせるようにして夏香の足を軽く払った。

「……っと!」

 体制を崩された夏香は、そのまま地面に手を突くと、倒れる勢いをそのまま利用して、逆立ちの状態からジャンプし、軋琉と距離をおくようにして着地した。

「さっすが。世界最強の称号は伊達じゃないね」
「そう言うお前さんこそ、なかなかやるじゃないか」

 うっすらと笑みを浮かべる軋琉に、夏香はグッと身構えた。

「……レベル2」

 そう言うと、夏香は軋琉めがけて再び突っ込んできた。
 しかも、その速さは先程とは比べ物にならなかった。

「ッ!」

 先程のように背後に回りこむ小細工などをせず、夏香は真正面から軋琉にラッシュ攻撃を仕掛けてきた。
 夏香の攻撃は見切るのですら困難なくらいの速さに加え、その一撃一撃がハンマーで思いっきり殴られたよりも重い。普通の人間ならまともにガードをしていれば、たった数発で腕の筋組織がやられ、ガードを弾かれたところに、怒涛の攻撃を受けてしまうであろう。
 しかし、そこは世界最強と謳われた軋琉である。夏香の強力な攻撃を全て見切り、ある時は受け流し、ある時は紙一重でかわしを繰り返していた。
 それでも夏香が攻撃の手を休めることはなかった。

「どうしたの? 防いでるばかりじゃ、私は倒せないわよ?」

 まだまだ余裕といった表情さえ見せて、夏香はラッシュのスピードを上げる。
 軋琉も無言でそれに対応していたが、次第に夏香に押され始めた。

「チッ……」

 軋琉が小さく舌打ちした瞬間、夏香が放った右のフックが、軋琉の眼前をかすめる。
 軋琉は思わず半歩下がった。
 それを逃すはずもなく、ニヤリと笑うと、夏香はそのまま左でストレートを出した。
 重心を後ろに下げた軋琉にしてみれば、たとえそれを防いだとしても、反動で後ろ側に体制を崩すことは目に見えている。
 体制を崩したところで強力な一撃を見舞えば、確実にダメージを与えられる。

「(もらった……!)」

 心の中で夏香は叫んだ。
 ガスッ!
 同時に鈍い音が響く。



第7話に続く
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