世界最強に挑戦!
6
それが、勝負の合図となった。
言うが早く、夏香はいきなり軋琉に猛スピードで突っ込んでくる。
「……意外と速いな……」
軋琉がそう呟いた時には、夏香はすでに軋琉の目の前まで迫っていた。
「まずは小手調べっ!」
夏香がそう言った瞬間、軋琉の視界から夏香の姿が消えた。
しかし、軋琉は少しもひるむことなく、右手をすっと自分の顔の隣に上げた。
ガシイィッ!
数コンマ遅れて、軋琉の腕に、夏香が背後から放った回し蹴りがぶつかる。
「いい蹴りだ」
夏香の蹴りを受け流すようにして弾くと、軋琉は左手を目の前にかざしながら後ろを振り返った。
ガツッ!
回し蹴りを弾かれた夏香は、そのままかかと落としを出してきた。
しかし、軋琉はこのかかと落としすらも受け流すように弾いた。
2度の蹴りを弾かれたが、すぐに体制を立て直すと、夏香は体を翻して右腕を大きく振りかぶった。
「とぉりゃあっ!」
勢いよく振りかぶった夏香のパンチを、軋琉は紙一重でかわすと、夏香の勢いに合わせるようにして夏香の足を軽く払った。
「……っと!」
体制を崩された夏香は、そのまま地面に手を突くと、倒れる勢いをそのまま利用して、逆立ちの状態からジャンプし、軋琉と距離をおくようにして着地した。
「さっすが。世界最強の称号は伊達じゃないね」
「そう言うお前さんこそ、なかなかやるじゃないか」
うっすらと笑みを浮かべる軋琉に、夏香はグッと身構えた。
「……レベル2」
そう言うと、夏香は軋琉めがけて再び突っ込んできた。
しかも、その速さは先程とは比べ物にならなかった。
「ッ!」
先程のように背後に回りこむ小細工などをせず、夏香は真正面から軋琉にラッシュ攻撃を仕掛けてきた。
夏香の攻撃は見切るのですら困難なくらいの速さに加え、その一撃一撃がハンマーで思いっきり殴られたよりも重い。普通の人間ならまともにガードをしていれば、たった数発で腕の筋組織がやられ、ガードを弾かれたところに、怒涛の攻撃を受けてしまうであろう。
しかし、そこは世界最強と謳われた軋琉である。夏香の強力な攻撃を全て見切り、ある時は受け流し、ある時は紙一重でかわしを繰り返していた。
それでも夏香が攻撃の手を休めることはなかった。
「どうしたの? 防いでるばかりじゃ、私は倒せないわよ?」
まだまだ余裕といった表情さえ見せて、夏香はラッシュのスピードを上げる。
軋琉も無言でそれに対応していたが、次第に夏香に押され始めた。
「チッ……」
軋琉が小さく舌打ちした瞬間、夏香が放った右のフックが、軋琉の眼前をかすめる。
軋琉は思わず半歩下がった。
それを逃すはずもなく、ニヤリと笑うと、夏香はそのまま左でストレートを出した。
重心を後ろに下げた軋琉にしてみれば、たとえそれを防いだとしても、反動で後ろ側に体制を崩すことは目に見えている。
体制を崩したところで強力な一撃を見舞えば、確実にダメージを与えられる。
「(もらった……!)」
心の中で夏香は叫んだ。
ガスッ!
同時に鈍い音が響く。
第7話に続く
第5話に戻る
図書館に戻る