世界最強に挑戦!
9
「逃がさないよっ!」
そのまま空中で体勢を立て直し、足に巻いていたバンダナのような布を解いて手にすると、真下に向かってなぎ払った。
布が伸び、地面にこすれたのか、鋭利な刃物で斬りつけられたような跡が地面に付く。
そのまま着地すると、夏香はそのまま何もない空間に向かって布を振り回した。
ビュッ! ビュッ! と空を切る音が、布を振るたびに起こる。
「そこだあっ!」
すると、突如布の軌道が変化し、先端が何かを捉えたように巻きつき、右腕を取られた軋琉の姿が現れた。
「おっと……」
「もらったあっ!」
間髪入れずに、夏香は軋琉に向かって飛び掛ってきた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
夏香はそのまま、右手に全身全霊を込めたストレートパンチを軋琉に叩きつけた。
「チッ……」
右手をとられた上に、このスピード、この距離である。
さすがにこれは先程のようにカウンターを入れることはもちろん、かわす余裕すらない。
この舌打ちも、フェイクではなかった。
ズガアッ!
ストレートを軋琉は左手一本で弾くように受け止める。
「……ッ!!」
しかし、それでもガードの上から、かなりの衝撃が軋琉の左腕全体に走った。
感電したように筋組織が痙攣し、わずかながらに骨の軋む音がした。
「っづああっ!」
ガードを崩しはしなかったものの、反動で軋琉は大きく後ろに流された。
引きずった部分の地面が靴のかかとで削れ、轍のようにえぐれた。
「っててて……何つー馬鹿力だ……腕が折れるかと思ったぜ」
右腕に絡まった布を振りほどきながら、軋琉はジンジンする左腕をパタパタと振ると、少しばかり苦悶の表情を浮かべた。
布を足に結ぶと、夏香は勝ち誇ったような笑みを浮かべた
「調子に乗りすぎたようね。あれで私を惑わせると思ったの?」
「やれやれ、うまくやったつもりだったんだけどな……どうやって見抜いたんだ?」
「『勘』……よ」
「なるほどな……」
そう言うと、軋琉は突然、自分の首につけているチョーカーに手を当てた。
第10話に続く
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