世界最強に挑戦!


「逃がさないよっ!」

 そのまま空中で体勢を立て直し、足に巻いていたバンダナのような布を解いて手にすると、真下に向かってなぎ払った。
 布が伸び、地面にこすれたのか、鋭利な刃物で斬りつけられたような跡が地面に付く。
 そのまま着地すると、夏香はそのまま何もない空間に向かって布を振り回した。
 ビュッ! ビュッ! と空を切る音が、布を振るたびに起こる。

「そこだあっ!」

 すると、突如布の軌道が変化し、先端が何かを捉えたように巻きつき、右腕を取られた軋琉の姿が現れた。

「おっと……」
「もらったあっ!」

 間髪入れずに、夏香は軋琉に向かって飛び掛ってきた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 夏香はそのまま、右手に全身全霊を込めたストレートパンチを軋琉に叩きつけた。

「チッ……」

 右手をとられた上に、このスピード、この距離である。
 さすがにこれは先程のようにカウンターを入れることはもちろん、かわす余裕すらない。
 この舌打ちも、フェイクではなかった。

 ズガアッ!

 ストレートを軋琉は左手一本で弾くように受け止める。

「……ッ!!」

 しかし、それでもガードの上から、かなりの衝撃が軋琉の左腕全体に走った。
感電したように筋組織が痙攣し、わずかながらに骨の軋む音がした。

「っづああっ!」

 ガードを崩しはしなかったものの、反動で軋琉は大きく後ろに流された。
 引きずった部分の地面が靴のかかとで削れ、轍のようにえぐれた。

「っててて……何つー馬鹿力だ……腕が折れるかと思ったぜ」

 右腕に絡まった布を振りほどきながら、軋琉はジンジンする左腕をパタパタと振ると、少しばかり苦悶の表情を浮かべた。
 布を足に結ぶと、夏香は勝ち誇ったような笑みを浮かべた

「調子に乗りすぎたようね。あれで私を惑わせると思ったの?」
「やれやれ、うまくやったつもりだったんだけどな……どうやって見抜いたんだ?」
「『勘』……よ」
「なるほどな……」

 そう言うと、軋琉は突然、自分の首につけているチョーカーに手を当てた。



第10話に続く
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