世界最強に挑戦!
11
「こらあっ! お前らあっ! わしの土地で何をしとるんだあっ!」
突如、街路樹の向こう側から、初老の男が2人に向かって怒鳴りつけてきた。
その背後には、数人の警官と警察のパトカーまでもが見える。
互いの拳が互いの顔面を捉える直前で固まったまま、軋琉と夏香は同時に男の方に向いた。
「何? またあんたが呼んだわけ?」
「んなわけねえだろ……」
「そうよね……何か無茶苦茶怒ってるみたいだし……」
「まさか私有地だったとはな……俺の情報不足か……」
先程までの張り詰めた緊張感から一変して、しらけた空気の中、2人は構えをとくと、互いに顔を見合わせた。
「どうすんの? 私、何かしらけちゃった……」
「やっぱ、勝手にやりあうのは神様が許しちゃくれないか……なら」
そう呟きながら、軋琉は夏香に1枚の封筒を渡した。
「これをお前さんにやるよ。昨日、暦の連中から俺がかすめ取っといたやつだ」
「何? これ?」
「『FOWvsNOB』の参加招待状だ。それに出たらどうだ?」
「どうして?」
「俺も出るからだよ、この大会にな」
「えっ?」
そう言いながら軋琉はもう一枚、「FOWvsNOB参加招待状」と書かれた夏香と同じ封筒を取り出した。
「何で、あんたがこんな表舞台に立とうと思ってんのよ?」
「今回の大会に少しばかり興味をもってな。絶対裏があると思って、ちょっと探ってみようかって思ってんだ」
「ふ〜ん……それで、私にも出ろってこと?」
「格闘大会なら誰にも文句を言われずに本気で戦えるだろ? 悪い話じゃないと思うけどな」
そこまで言うと、軋琉は手にしていた招待状を懐にしまうと、ニカッと笑って見せた。
「ええいっ! いつまでここに居るつもりだ!」
2人の事情など全くお構いなしといった感じで、初老の男は警官を引き連れながら2人に再び怒鳴り散らして2人の方にずかずかと歩み寄ろうとしていた。
しかし、2人も初老の男も警官達も全く相手にしていなかった。
「さて、返事はどうだ?」
「フッ……そこまで言われたら返事は1つに決まってるでしょ」
不敵な笑みを浮かべると、夏香はポケットから閃光手榴弾を取り出し、地面に思いっきり叩きつけた。
眩い光が2人を包み込む。
「わっ! 何だ!」
いきなり目の前で放たれた光に、初老の男と警官達は思わず自分の目を覆った。
暫くして光が収まると、そこに2人の姿はなかった。
「わ、わしは夢でも見ておったのか?」
もちろん、夢ではなかった。
それを証拠付けるかのように、2人が戦っていた痕跡と思える、斬り裂かれたような跡と、靴のかかとでこすれてできた轍のようなくぼみが、地面に残っていたのであった。
そして、この一瞬の閃光が放たれた瞬間に、2人はめいめいにこの場から逃げたのである。
「もちろん出るわよ。そこで私があんたより上だってこと、証明してあげるよ!」
「そうかい、そいつは楽しみだ……そうそう、この大会はタッグ戦だからな。誰か頼れるパートナーを見つけとけよ」
「そういうあんたこそ、足引っ張るような奴と組むんじゃないわよ」
「もちろんだ……じゃあ、大会で会おうぜ」
分かれる間際に互いにそう言葉を交わして。
※
第12話(最終話)に続く
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