外伝 F・O・W
〜忘れ得ぬ光〜
第1話
作者 かみぃゆ
| 眠りとは浅いものだ。 それは己が意識とは裏腹に。 疲労?…そうかもしれない。いや、そうなのだろう。 よって、私はその日見た夢を覚えていた事はない。 眠っている間には、無くした記憶を第3者として客観的には見ているはずだ。 閃光―。そして、崩壊。 閃光―。そして、崩壊。 外伝 F・O・W 〜忘れ得ぬ光〜 第一話 「閃光の行方」 朝―。 閃光、それとは違う命の光。 新しい命が己の生に喜びを感じる朝。 そう、それが朝。 命が生まれる光。 「あのぅ、お食事できましたが。」 私はゆっくりと目を開けた。 そのせいもあり、まばゆい光にもすぐ目が慣れた。 「ん、あぁ・・・。ありがとう・・・、今行きます。」 私の顔を覗き込み、優しい声で起こしてくれた…『梨華』という少女は優しい顔で笑ってくれた。 「洗面所はあちらにあります。お好きに使ってくださいね。」 身体をゆっくり起こすと私は洗面所で顔を洗おうと思った。 洗面所の前に立って私はぎょっとしてしまった。 (鏡が割れている・・・。) あの陣という青年が割ったのか? それとも、梨華―?…まさか。 しかし、鏡を見たくない。そんな気持ちは私にも解る。 今でもそうだ。極力自分の顔は見たくない。 食卓にはパンとコーヒー、それにサラダがあった。どれもブレイクファーストには最適であろう品々だった。 コーヒーをすする。 「あの、何故旅をしているんですか?」 梨華がまたまばゆい笑顔で尋ねてきた。 「…さぁ。」 「そうですか・・・。」 なんだかいけない事を質問してしまったと思ったのだろう。彼女はうつむいてしまった。 「…でも、それを知る為に旅をしているのかも知れないわ。」 私は笑顔を知らない。だから、かわりにこういう皮肉を言うしかないのだ。 「これでいい?」 「えっ?」 「旅の理由。」 コーヒーをすすりながら、私は言った。 その皮肉めいた台詞に彼女はまた、笑ってくれた。 「ふふふ、はい!充分です」 「ん?」 「どうしました?」 陣がいない・・・。 「あ、陣さんですか?彼は、一稼ぎ行きました。」 「一稼ぎとは?仕事?」 「さぁ・・・、彼、一稼ぎというだけで。どこでなにしに行くのか言っていかないんです。」 「そう…。」 「でも、帰ってきたときの気性が激しいんですよ。すっごく喜んでるか、すっごく落ち込んでるか。 それに最近、ベルさんと同じように旅で行き着いてきた人と一緒にいるみたいなんです。」 「そう…。」 梨華はまるで自分のことのように楽しそうに話す。 私は聞き手に徹することにした。 (この娘には苦しむことなどなにもないのだろうな・・・) そう思ったことが大きな間違いだと、この時の私が知るわけもなかった。 「あ、そうだ!…もし良かったら、ベルさん、彼等のところへ行ってきたらどうです?すぐ先の『パーラーヘルメス』にいるみたいですよ。」 「そう?では、ちょっと覗こうかしら。」 (そこはパチンコ店ではないのか?) その店は、本当に家からすぐ近くにあった。 そして、彼の姿もすぐに見つかった。声を掛けようと思ったが、しばらく様子を見ることにした。何故なら、知らない男が横に座っていたからだ。 「リィィイイチッッッ!!!さぁ来い!さぁ来い!そう!そうそうそう・・・あ、あぁぁああああああっっっっっっっ!!!!」 右手で台の突起を握り締め体全体で喜怒哀楽を表現している。 今回は、どうやら『哀』を垣間見たようだ。 「あ。また来ました。」隣の男が言う。 カチンと来たのか、引きつった笑顔で陣は言う。 「ほ…ほ〜〜ぅ、優君〜よ・か・っ・た・にぃ〜〜♪♪」 陣の隣にいる男…いや、年場から見て少年だろう。青いジャケットを着ているが、肩には柔道着を帯で包んだ物を背負っている。 そして、彼の座っている椅子のすぐ横には玉のいっぱい入った箱が1,2,3・・・7,8・・・10箱も積んでいる。 一方、陣は…言うまでもないだろう。梨華の話からすると…今日は『思いっきり落ち込んで帰る』のだろう。 …私は、外で待つことにした。 しばらくして、大きな声が聞こえてきた。 「まー、ビギナーズ・ラックってやつだぁ!はっはっはっ!しかし、わりーな、分け前頂いちゃって!」 「いえ、教えていただいたのは陣さんですし。当然です。」 その言葉を聞いて涙ぐむ陣。 「お、お前・・・良い、奴だな・・・。」 がっちりと彼を抱きしめる陣。苦笑いでされるがままの少年。 陣より先にその少年が私に気付いた。 「あ、あの・・・陣さん?」 「いや!いいんだ。もう分け前はいいんだぜ!?」 「いや、あのそうじゃなくて・・・」 「なんだ違うのかよ・・・」 「えΣ(目口目 い、いや、あの娘・・・」 「ん?あぁ!お前、こんなとこ来ちゃ駄目だって!…り、梨華には内緒な」 ため息と一緒に私は頷いた。 「紹介するよ。この娘はベルちゃん。昨日、ここ(第3成田)に着いたんだ。それと・・・」 次は私に目を移す 「彼は米倉 優。3日前にここに辿りついた旅人さ。母ちゃん探してるんだってさ。」 紹介を受けた彼は礼儀正しくおじぎしてみせた。 「米倉 優です。よろしくお願いします。」 「…ベルよ。よろしく…」 「ちょうどいいや、お二人さん。この街にはあいさつ”しておいた方が良い”人が何人かいるんでね。しばらくここを拠点にするんなら顔出しといたほうがいい。変わり者だが、悪い奴じゃねぇよ。―さ、着いてきな。」 陣は私と優を導き歩き出した。 やれやれ、面倒臭い街だ・・・。 続く |