外伝 F・O・W
〜忘れ得ぬ光〜


第2話・前編

作者 かみぃゆ


外伝 F・O・W 
     第2話 「仮面の男」


陣に連れられて廃墟のまま放置されたビルの元まで来た。
何気に優のほうを見たが、その横顔は端整で綺麗だった。
短めに揃えた黒い髪がより一層彼の魅力を引き出していた。

私は彼の瞳の動きで目的の場所に着いたことを悟った。

…何故だか、他人を観察する事に慣れてしまっているらしい。私の眼球は。


陣は廃墟のビルのなんでもない壁の前に立った。
「さぁ、着いたぜ。」
「はぁ・・・。」
「なにもないじゃない」
陣はにへらにへらと笑って私達の反応を楽しんでいるかのようだった。
「それがどっこい、見ておけよ〜」

陣は壁に向かってなにかのリズムに乗って、拳で叩き始めた。
「せまるっ〜♪ショッカァ〜〜♪」
彼のお世辞にも上手いと言えない歌を聴かされ、私と優はそこに呆然と立ち尽くした。
「・・・」

『ガチリ☆』

なにか鍵が開くような音がした。
その音を聞くや、陣は両手で壁を持ち上げ始めた。

「んぐぐぐぐ・・・!」

顔は真っ赤だった。そうとう重いらしい。
すると壁にはドア型の長方形の切れ目が生じ、上に大きくずれた。

「な、なにやってんだ・・・!はやくっ、入りやがれ!!!」
真っ赤になりながら陣は私達に叫んだ。
「あ、はいっ」
優がその声に素直に従い、駆け足で中に入った。
「…」
私も追う様にして中に入った。
「チェストー!」
続いて陣が滑り込むように入ってきた。




「はぁはぁ・・は・ぁ・・・・はぁ・・」
ぜえぜえ息を切らす陣に優が話し掛ける
「あの、陣さん。大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む優に陣は「フェ、フェイントだっつーの!こんなの屁でもねーよ!ナハハハハ!!」と虚勢を張った。


「なんの用だ。陣。」


薄暗いその部屋の奥から男の声が響いた。
暗くてあまり見えないが、上半身裸で、昆虫を象ったような奇妙な仮面をつけた男がそこに座っていた。

「旅で行き着いた連中がいるんで、紹介しようと思ってさ。」

「・・・そうか。」

「ほら、お前らちゃんと挨拶しろよ!」

あたふたと優が男に言う
「あ、えっと米倉 優です!母の居所を探しながら旅しています!」
「ああ、よろしく」
陣が『次はお前だよ』という素振りで私を前に出した。

(やれやれ・・・)

「ベルよ。旅の理由は・・・特に無いわ。」
「・・・」
男は私の挨拶に返事を返さず、無言だった。
私は特に気に留めることも無かったが。

「・・・君は。いくつだい?」
唐突に男は質問を投げかけてきた。
その質問に少し驚いたが、表情には出なかったはずだ。

「何故?」
「いや、14,5歳くらいには見えるんだが、それにしちゃ落ちついているな。と思ってね。」
「あら?隣の米倉君も同じくらい落ちついてはいないかしら?」
「…ふふ、確かにな。悪かった妙なことを聞いて」
「いいえ」
陣が男と私の会話が終わるのを待って男にこう告げた。

「この2人は、ちゃんと俺と梨華で様子を見てある。結果、『合格』。第1〜4成田で起きた揉め事はこの2人とは関係ねーんで、間違って成敗しないよう頼むぜ」
「ああ、わかった。」

陣が仮面の男を紹介する
「えっと、紹介が遅れたけどこのイカれた仮面被ったおっさん、第1〜4成田で起きている犯罪行為や暴動なんぞを抑えてくれているおっさんなんだ。元々世界を旅していたんだが、この町を拠点にして2年ほど経った。ここにしばらくいるんだったら、おっさんに顔さえ出しときゃ変に疑われないってことなのさ。
ま、それまでにそれに値する人間かどうかは町の代表が判断するんだけどね♪」

「で、お前等はそのテストに『合格』したわけ。オメデトー」
陣は相変わらずおおげさな身振り手振りで説明してくれた。

「じゃ、そういうわけで。行くぜ、おっさん」
「ちょっと待ってくれ。」

部屋を出ようとする私達を男は呼びとめた。

「ベル、と言ったかな。」
「なに?」

男は私を見つめている―…
「陣」
「なんだよ」
「少し二人にしてくれ。終わったら合図するから開けてやってくれ。」
文句を言おうとした陣だったが、男のただならぬ気配に気付いたのか、黙って頷いて優と共に部屋を出た。


 
第2話・後編に続く
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