外伝 F・O・W
〜忘れ得ぬ光〜


第2話・後編

作者 かみぃゆ


外伝 F・O・W 
     第2話 「仮面の男」(後編)



「こっちに来てくれないか。」
仮面の男はこちらから目を逸らさずに言った。
「…ええ。」
私も彼をみつめながら近づいていった。

5m…4m…3m…徐々に距離が縮まっていく。

彼との距離が近づくにつれ、彼の露出した上半身が鮮明に見える…。

(すごい…。なんてしなやかに鍛えられた筋肉だろう…)
プロレスラーとキックボクサーを足して2で割ったような綺麗な筋肉をしている。

「!!」

さらに近づいてみると、彼の鍛え抜かれた肉体には無数の傷があった。
…傷の種類は実に様々だった。

切り傷、打ち傷、火傷痕、なにかが刺さった後のような傷痕もあった。
「ひどいだろう?」
「ええ。でも、訳は聞かないわ」
「フフ…10代の少女の言葉とは思えないな。」
「…もうあなたと私の距離はないわ。さぁ、なにを言いたいの?」
「度胸の据わった娘だ。犯されるとは思わなかったのか?」
「慣れているわ。”そういうの”には」
「…だろうね。落ちつき過ぎている。」
仮面を被っているせいもあるが、彼の声は色々な感情を殺しているような感じを受けた。そのため、彼の真意が掴めなかった。

「あまり人前では外したくはないんだが・・・」
男は私の目の前で仮面を外した。
「…!!!」
身体に傷にも増して見るも無残な顔面だった・・・。
頭髪などは既になく、半ば眼球も飛び出しかけている。それを抑えるかのようにボルトや釘のようなものが直接肌に打ち込まれてあった。それだけではない、皮膚の至るところは被爆したかのように溶け、ケロイド痕になっていた。
「やはり…。俺のこの顔を見てもほとんど動じない。か」
「なにが言いたいの?」
「俺に一体なにが起こったのか。目を見てくれれば君は解ってくれるだろう?」
私は言われるままに彼の瞳をじっとみつめた。

「俺の年齢は、顔がこんなのだから解らないだろうが…。50代半ばだ。」
「・・・」
私は何故か見つめたまま動けなくなっていた。
「つまり・・・」
目の前が真っ白になる。
そんな中でも彼の声だけがはっきり聞こえる。

「俺は『あの惨劇』の・・・」



惨劇―…扉―…サングラスの―…




ヴィジョンが暴走する。見たこともない映像が一斉に流れ込んでくる。

見たこともないはずなのに!確かにどこかで見た!!



額に鍵穴の空いた少年が近寄ってくる・・・


『8月、それは”デジャヴ”というものさ―』





「生き残りだ。」






赤い髪の少女??    崩壊する街!!  同化する世界ィィイイイイ!!!


ウェン…ディ…


『ティンク…君も。  僕から離れるんだネ…』



ドクン!    
           ドクン!!



     ドクン!!!!


『イヤァアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
モニターを見て絶叫する赤いスーツの女。
後で私が立っている。
「ねぇ。どうしたの?」
赤いスーツの女は私の声に反応せずに叫んでいる。
「ねぇ。どうしたのってば」
赤いスーツの女は瞳に涙を溜めながら叫んでいる。
『アルシャンク!アルシャンク!!よくもこんな恐ろしいことを!!!』
「ねぇってば、どうしてそんなに怒ってるの!?」
『世界が・・・あぁ、同化する。人が大勢・・・死…』
『ねえ!』

赤いスーツの女が振り向いた。
私と目が合った。





「なにか見えたか。」

気がつくと仮面の男がじっとまだ私を見ていた。
私の身体は大量の汗でぐしゃぐしゃになっていた。

「…わから、ない。」

男は仮面をまた被ると陣に向かって叫んだ
「おい、陣。開けていいぞ!」

「ほら、行っていいぞ」

嫌な汗でビショビショになった私は彼に尋ねた。
「…あなたは誰?一体、私の『ナニ』を知っているの!?」
静かに彼は言った。
「俺は暦を狩るもの。そして、悪を狩るもの。それはあの惨劇の犠牲者だからだ。君には何故か”あの惨劇”の匂いがしたのさ。」


『バタン』



壁が閉まる轟音と一緒に、気を失い倒れる私を優が抱きとめた。







閃光。そして―…




続く


 
第3話に続く
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