外伝 F・O・W
〜忘れ得ぬ光〜


第5話

作者 かみぃゆ


第5新宿に構える一件の施設―。
いや、施設というのには少々お粗末過ぎるかも知れない。
大きな看板が玄関先に立て掛けている。

その招かれざる客は声に出してその文字を読んだ。


         「日向孤児院」



外伝 F・O・W 
     第5話 「来訪」

「っぎゃぁーー!!なんだこりゃぁ!」
「!?なんだよ、文句あるの!」
騒がしい施設の朝が始まる。
元々、子供だらけなので騒がしいことには変わりは無いが、この二人が来てからは更に騒がしくなった。
「おい、セツナ。いいか、よく聞いとけよ。なぁカツヒコ、これ、なんに見える?」
元千葉・第2新宿で親を亡くした少年カツヒコに彼は皿に乗った黒い塊を指差し尋ねた。
「う〜ん、うんこ??」
「うんこかぁ〜そっかぁ〜うんこねぇ〜…で、正解は?」
カツヒコを睨みながら搾り出すようにセツナは言った。
「…ス、スクランブル…エッグ…」
「スクランブルエッグ!?冗談だろ?これはただの『スクランブル』じゃねぇーか!」
「うるさいうるさいうるしゃーーーーーあい!!!!」
黒い塊をほおばりながら俺は苛立ちを抑えている。
子供達はその様を見てケラケラと笑いこけている。

そうだよ、お前等は楽しいだろうなぁ、…だが、俺も結構歳なんだ。
朝っぱらから勘弁してくれ…。

「義仲のおっさんよぉ!どうなんだよコレは!?」
「形は悪いが…まぁ、味は悪くねぇ。」
「でしょ!でしょでしょでしょ!ねー、大事なのは中身よね!男とおんなじで!」とちらりとウルハを見る。
「へいへい、お前みたいなぺチャパイブスに人格論唱えられてもなんにもおもわね―よ」
「ムッカー!」


『ドッカーン!』


ぷすぷすぷす・・・俺の左手に掴まれたいたはずの茶碗が見事に粉砕され、俺の首から上はクロ焦げになった。

やれやれ…またか…。

「いっつもいっつもギャーギャーギャーギャーうるさいんだよ!たまには黙って食えないの!?」

「やかましい!気持ち悪いもんに気持ち悪いって言ってなにが悪いだまな板!」

3…

「まな板ぁ!?また言ったなー他人の気にしていることをずけずけと、そういうのを無神経って言うんだ!このマザコン!」

「マザコン!?マザコンって言ったか今?俺のどこをどう見たらマザコンになるんだよ!だいたい何年も料理やってんのになんでてめぇは一向に上手くなんねーんだ!才能ねーんだから作るんじゃねー!」

2…

「うわっ!よくもそこまで言えるなぁ!それでも兄貴かよ!どうせあんた見たい○△××、誰も寄って来ないんだからもう死んだら?」

「カッチ―ン!もう許さねぇっ!たっぷりてめぇにはお灸を据えてやる必要があるみてーだなぁ!」

1…

ウルハ&セツナ
「勝負だっ!」


「うるせぇー―――――――!!!!!」





やっと、さわやかな朝がきた。
今度はセツナとウルハの上半身がプスプスと焦げている。
「兄妹、仲が良いっていいなぁ。なぁ、ウルハ、セツナ」
ウ・セ
「はい・・・」
(お前のせいだからな!)
(何言ってんの?馬鹿じゃない!ウルハが最初に文句言わなきゃこんなことには…)
「世の中世知辛いよなぁ…。泊まるところにも苦労する時代だ。しかも、寒い冬に兄妹二人で野宿は辛いよなぁ。」

と、俺が言うと途端に肩を組み気持ち悪い笑顔で振りかえる二人
「い、いやだなぁ、おじさん、俺達こんなに仲がいいじゃないですか!な、なぁセツナ?」
「ニ、ニコ♪」
「結構結構。じゃ、皿洗い頼むぜ。」
「は、はぁ〜い。」

「おっちゃんおっちゃん」
「ん、なんだヨシロウ」
「誰か来てるよ。」
「ああ、そうか。今行く。」

いつもの一悶着を片付けた後、珍しく来客があった。
向かいのじいちゃんかな?うちの野菜売ってくれってまた来たのかも知れないな。


しかし、その客は俺の予想を余りにも軽く覆した―。
その少女は唐突に、そして衝撃的に俺の視覚、聴覚などの神経に刃を立てた。
玄関先で立ち尽くすその少女は、俺のことなど知りもしないようにこう尋ねた。

「日向…義仲さん?…私、仏滅の者ですが…」

声まで同じだ。赤いジャケット、黄色いリボン、右のふとももに巻いた緑色の帯、そしてなにより大きな縁の眼鏡。
俺は彼女の言葉になど反応しなかった。

そして、俺の意思とは無関係に口に出してしまった―




「…夏香…」



続く


 
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