餓狼伝説
〜狙われた狼〜
作者 タイ米
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| サウスタウン。 かつて、ギース・ハワードが支配していた暗黒の街。 そのギースが、テリー・ボガードという男に倒されてか らというもの、街はすっかり平穏を取り戻した。 ギース亡き後、多少の騒動は起こったりしたものの、新 たな恐怖が再び街を覆い尽くす、という事はなかった。 「見ろ。あれがサウスタウンの力の象徴、ギースタワーだ」 「『かつての』でしょ?」 「ご主人様は死に、ハワード・コネクションの地位も堕ち たというのに、まだ残ってるなんてね」 「それだけ、奴の存在が偉大だという事か、それとも…」 「……」 サウスタウンに現れた謎の5人がギースタワーを見て、 口々に喋る。 とはいえ、約1名は沈黙を保ち続けていたが…。 「どちらにせよ、あのビルがまだ残っているという事は、 まだギースの力がこの街に及んでいるという事だ」 金髪の青年が喋る。 人相はいかにも喧嘩っ早く、獅子を連想させる感じだ。 「どうする?」 大柄の黒づくめの男が、今度は口を開いた。 2m以上の体躯があり、そこにいるだけで、かなりの威 圧感があった。 「決まってるだろ。もちろん…」 金髪の青年の言葉に耳を傾ける4人。 「乗っ取るのさ!!」 ギース亡き今、ハワードコネクションは実質、前秘書だ ったリッパー、ホッパーの指揮の元、動いている。 裏社会での地位は堕ちたものの、表社会ではまだまだ権 威は大きかった。 「しかし、ギース様の力はつくづく偉大だと感じるよ。亡 くなられてから時間は経つというのに、関係の仕事はまだ こんなにあるんだ…」 リッパーがホッパーに話し掛ける。 「全くだ。おかげで残業の毎日だ。悲しいのやら、嬉しい のやら…」 すっかり、その辺のサラリーマンじみた言葉で返すホッ パー。 リッパーも笑みを浮かべる。 「さて、お仕事お仕事。さっさとこれは片付けないとな…」 「同感。でないと、いつまで経っても帰れないからな」 その時、ビルの警報機がけたたましく鳴った。 即座に反応する二人。 「な、何事だ!?」 ホッパーが叫ぶ。 すると、部屋にボロボロの姿でやってきた警備員が中に 入ってきた。 「こ、これは!?」 「お二人とも、早く避難を…。侵入…シャ、が…あぁっ!!」 前のめりで倒れた警備員の後ろには、長い金髪を上でま とめ上げた美女と、肩まで伸びた黒髪といかにもその歳の 子が着そうな服が印象的な少女がいた。 「まさか、お前らが警備を?」 ホッパーが尋ねた。 「あれ、警備だったの? ぜーんぜん手応えなんかなかっ たよ?」 少女が馬鹿にした口調で答えた。 いきり立ちそうな感情を抑えつつ、ホッパーは質問を続 ける。 「お前ら、何しに来た!?」 「あら、これを見て、お茶でも飲みに来たと思った?」 金髪の美女の方が答える。 少女よりも幾分、大人ではあるが、ジョークのセンスは 最悪だ。 「フン。馬鹿な真似は止すんだな。これでも俺達は前ハワ ードコネクション社長の秘書を務めた者だ…」 リッパーがナイフを、ホッパーが拳銃を持って構える。 「ギース様は秘書である我々にも、格闘術を強要した。仕 事柄、いつどこで命を狙われるか、わからないからな…」 リッパーがそう言った途端、少女が急に腹を抱えて笑い 出した。 「アッハッハッハ!! それでそのギースって人は、真っ 向から拳一つでやってきたテリーって人にやられたの。そ れって大馬鹿以外の何者でもないじゃん」 「こいつ!?」 ホッパーが少女に銃口を向けた。 引き金を引こうとした瞬間、少女の目が、ホッパーと合 った。 「撃ってみれば?」 急に彼女の雰囲気が変わった。 今まで、無邪気だった普通の少女に、尋常じゃない殺気 を感じた。 それだけではない。 金髪の美女も先程から、大量の殺気をリッパーに発して いる。 柄にもなく、リッパーは動けなかった。 (馬鹿な。俺達が女二人前にして、一歩も動けないだと!?) 二人は冷や汗をかいた。 「フッ。ギース・ハワードの秘書と聞いて、どれ程の者か と思えば、素手の私達に何一つできないなんて…。これじ ゃ主人も死ぬわけだわ」 「それ以上言うな!!」 ホッパーが再び構える。 今度は、どんな事があろうと撃つという気だ。 「レイラ…」 金髪の美女は、少女の名を言い、背を向けた。 そして、そのまま部屋から立ち去ろうとした。 「逃がすかぁっ!!」 リッパーがナイフを投げた。 襲ってくるナイフを金髪の美女は、人差し指と中指で受 け止めた。 「何!?」 「丸分かりよ。殺気を込めて投げちゃ、見なくても受け止 められるってものよ」 振り向きながら、金髪の美女は不敵に言った。 「気っていうのはね、最小限に消すべきよ…」 金髪の美女が構えると、次の瞬間、姿を消し、リッパー の側にやってきた。 そして、彼のナイフで一突き…。 「ぐあぁぁぁぁぁーーーーっっっ!!」 リッパーの叫びが部屋中にこだまする。 それを見て大笑いするレイラ。 「アッハッハ!! 傑作だよ、カレン!!」 「レイラ、よそ見は禁物よ…」 金髪の美女、カレンがそう言った瞬間だった。 ホッパーの銃が、レイラに火を噴いた。 しかし、動じないレイラ。 その時、当たる直前で奇妙な出来事が起きた。 銃弾がレイラの前で浮いていた。 「な! どういう!?」 「こういう事だよ…」 そう言い、浮かした銃弾をホッパーに向ける。 そして、目にも止まらぬスピードで、銃弾をホッパーの 体が貫いていった。 「…!!」 声すら出ないホッパー。 リッパーとホッパーにとって幸運だったのは、急所を二 人とも避けていた事だ。 というより、わざとカレンとレイラが急所を外したよう だ。 「フフッ。良かったわね。即死にならなくて。でも、その ままにしてると、危ないわよ」 「そうそう。私、この歳で人殺しになりたくないしぃ〜」 二人の言葉に怒りが走るリッパーとホッパー。 しかし、今はそれを力に変える術がない。 「まあ、早く病院に駆け込む事ね。あなた達が入院中の時 に、とっても面白いものを見せてあげるわ」 「な…に?」 リッパーが残った力を振り絞って喋る。 「そう。とびっきり面白いアトラクション。おじさん達に は特等席で見せてあげるよ」 レイラが不敵に言い放った。 リッパーとホッパーが気を失ったのは、その直後であった。 |