餓狼伝説
〜狙われた狼〜

作者 タイ米


 サウスタウンの側に位置する病院。
 窓からは力の象徴と言っていい、ギースタワーが見えた。
「情けねぇな。あんな奴らからタワーを守る事ができなか
ったなんて…」
 ベッドに横たわっていたビリーが呟く。
 重度の火傷であったが、悪運の強さか、一命は取り留め
た。
 と、病室から誰かが入ってきた。
「リリィ…」

 ビリーの妹、リリィ・カーン。

 狂犬と呼ばれるビリーが、唯一心優しくする相手であり、
ジョー・ヒガシの恋人でもある。
 もっとも、ビリーはジョーの事など、これっぽっちも認
めてはいなかったが。
「お兄ちゃん、大丈夫? 食欲はあるの?」
 リリィがビリーに心配の声をかける。
 差し入れの果物が入った袋を、テーブルに置く。
「ああ、心配ない。このまま退院しても大丈夫だろ」
「もう、お兄ちゃんったら、またその事ばっかり。少しは
安静にしてなきゃダメだよ」
「安静? 今の俺にそんな事できるかよ!」
 ビリーの拳が震える。
 歯が軋み、その様はまるで狼の如しだ。
 リリィはそんな兄の様子に少し、恐れを抱いている。
 ビリーもそれを悟り、気分を落ち着ける。
「悪い、リリィ。だが、俺もこのままじゃ終われねえんだ。
あいつらだけは、あいつらだけはこの俺の手でぶっ倒さな
きゃ気が済まないんだ!!」
 震えがさらに強くなる。
「お兄ちゃん、冷静になって! とにかく、今は体力を回
復することに専念しようよ! でないと、また私…」
 急にリリィが涙を流した。
 今回の事で、リリィは今まで以上に兄の安否を心配した
のだ。
「わかった。わかった。お前をこれ以上、心配かけるよう
なマネはしない。だから、もう泣くのはやめてくれ…」
 ビリーにとっても、リリィの泣き顔を見るのは当然辛い
ようだ。
 と、リリィの側に少年が現れた。
「?」
 彼の正体はロックだった。
「あ、あなたに用がある人がいるんだ。少しだけ付き合っ
て…くれないか?」
 ロックは下を向きながら用件を伝えた。
 彼にとって、女性と会話をするという事自体、あまり慣
れてはいなかった。
 廊下の方を見ると、テリーとジョーがそこにいた。
 リリィはすぐに悟った。
「わかったわ。お兄ちゃん、少し席外すけど、いいでしょ?」
「ああ。構わないぜ…」
 ビリーは横になって、眠りについた。

 廊下に出るロックとリリィ。
「連れてきたよ、テリー」
「OK、ご苦労だった。ロック」
「テリーさん、どうしてここが?」
 リリィが尋ねた。
「ちょっと噂を聞いてね。その真偽を確かめに来たんだけ
ど、この様子だと、どうやら本当っぽいな」
「リリィちゃん、ビリーが誰にやられたか、言ってなかっ
たか?」
「ううん、よく寝言で『あの大男が!』ってよく言ってた
わ?」
「大男?」
「あと、レオンとかオオトモとか、ディンとか色々言って
たっけ」
「レオン、オオトモ、ディン。人の名前か…」
 テリーが呟く。
「恐らく、そいつらがビリーを倒し、今もタワーに潜伏し
てる連中だろうよ」
 ジョーが言う。
「そして、そいつらが今回の主催者というわけか」
 テリーが大会の招待状を取り出す。
「間違いねぇな。ビリーを倒すという事は大方、裏社会で
のし上がろうって寸法だろう。悪党がよく使う手だぜ」
「とりあえず、俺達が今やるべき事は、大会で勝ち上がる
という事だけだな」
「ああ。でないと、何も相手の情報が掴めないからな」
「あの、そろそろ、兄の看病に戻ってよろしいでしょうか」
 テリーとジョーの会話にリリィが割って入った。
「ああ。協力ありがとう。わざわざ済まなかったね」
「いえ…」
 テリー達はそのまま、その場を去ろうとした。
 その時、リリィが急に口を開いた。
「あの、皆さん…」
「?」
 テリー達が振り返る。
「兄を、兄を倒した相手に必ず勝って下さい!!」
 リリィにしては珍しく力の入った発言であった。
 兄がやられた悔しさは、妹にも伝わっているようだ。
「OKだ。リリィちゃん」
「リリィちゃんをそこまで悲しませるんだ。そんな奴は俺
のハリケーンの餌食にしてやるさ!!」
 テリーとジョーが心強い言葉を返した。
 リリィに笑顔が戻った。
 それを確認すると、テリー達は病院を後にした。

 サウスタウンに戻る一行。
「レオン、オオトモ、ディンねぇ…」
 テリーは、リリィから得た黒幕と思しき人物の名を呟い
た。
「そして、金髪の嬢ちゃん。果たして彼女が3人のうちの
誰かなのか。それとも、4人目なのか…」
 テリーが考え事をしていると、何者の肩がぶつかった。
「おっと、済まない」
 テリーが先に謝った。
 ぶつかった相手は、灰色の髪をした少年だった。
 少年はテリーが謝った後も、無言を貫いていた。
「おい、少年。ぶつかっておいて謝りの一言もなしかい?」
 ジョーが少年を注意する。
 少年は、ただジョーを一睨みしただけで、そのままどこ
かに行ってしまった。
「ケッ! 可愛くない奴…」
 ジョーが愚痴をこぼす。
「ハハッ。何か他人な感じがしないなぁ」
 テリーは笑って、少年が去った方向を見つめていた。
(そう。他人な感じがしない。あの目といい、殺伐とした
気といい…)
 テリーはあの少年に、昔の自分と重ね合わせていた。

「が、ガハァッ!!」
 数人の男達が、少年の周りを取り囲むように、腹を抱え
て苦しんでいる。
 一回り大きい大人達を打ちのめしたのは、先程、テリー
とぶつかった彼だ。
「そっちから喧嘩ふっかけておいて、その程度か。サウス
タウンのファイターが聞いてあきれるぜ…」
「な、にっ!?」
 男の一人が、かすれた声で尋ねた。
 少年が、その男に近づく。
「やられたクセに、それ以上喋るんじゃねえ。サッサと寝
てろ!!」
 冷ややかな瞳で、男の顔面に思いっきり蹴りを入れた。
 男はその瞬間、気を失った。
「こんなんじゃ、癒えねぇ…」
 少年が呟く。
「レオン。てめぇの断末魔の叫びを、この耳で聞かなきゃ
なぁ!!」
 直後、雨粒が地面に落ちた。
 勢いは段々強くなり、あっという間に少年をずぶ濡れに
した。


 
第6話に続く
第4話に続く
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