餓狼伝説
〜狙われた狼〜

作者 タイ米


 大会当日の朝。
 ビリー達が入院している病院では、ある騒動が起き
ていた。
「院長! 大変です!!」
「どうした!?」
「305号室のリッパーさんとホッパーさんが、いな
くなったんです!」
「何!?」
 それを偶然にも耳にしたビリーは、眠気が一気に吹
き飛んだ。

「こ、ここは…」
 騒動の原因の一人であるホッパーは目を覚ました。

 見慣れた天井。

 見慣れた風景。

「グッモーニン。Mr.ホッパー」
 声に反応し、その方向に顔を向けるホッパー。
「お前は!?」
「どうも。ここの新しい主のレオンという者だ」
「新しい主…だと!?」
「この前、お前達を病院送りにした女達がいただろう。
俺はそいつらの仲間、いや、主人だ」
「主人!?」
「あ、やっと起きたのね。大人のくせに、寝坊はいけ
ないんだよぉ?」
 この腹が立つような喋り方。
 ホッパーは忘れはしなかった。
「お前はあの時の!」
「私にはレイラって名前がちゃんとあるの。覚えても
らわなきゃ困るよ!」
「これはどういう事だ?」
「あら? あなた達を襲った日の事、覚えてないの?」
「襲った日?」
 ホッパーはあの時の事を必死に思い出そうとした。
 できれば、あまり思い出したくない出来事だが。
「面白いアトラクションを特等席で見せてあげる。そ
う言ったのよ」
 レイラの言葉に、何となくそんな事を言われたよう
な気がしてきたホッパー。
「私はこう見えても、約束にはうるさいの。だから、
レオンに無理してここに連れて来てもらっちゃった」
「お前は言い出したら聞かないからな。まあ、新たな
時代の立会人として見てもらえば、悪くはないだろう」
 ここでホッパーは相棒のリッパーについて、思い出
した。
「お友達なら、一足早くあそこにいるよ」
 ホッパーが尋ねる前に、レイラがリッパーの居場所
を指差す。
 だが、そこにリッパーの姿はなく、ただ、窓だけが
開かれ、ロープが外に垂れ流しになっていた。
「まさか…」
 ホッパーは窓に駆け寄った。
 見ると、体中をロープでグルグル巻きにされたリッ
パーが外で吊るされていた。
「リッパー!!」
「あなたもこうなるんだよ?」
「!?」
 ロープがホッパーの周りに絡みつき、体の自由を無
くしていく。
 そして、ホッパーの体が宙に浮くと、そのまま外に
放り投げられていった。
「それ! バンジー!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!」
 かつて、ギースがタワーから転落した時は、こんな
気持ちだったのかと、ホッパーはどんどん近づいてい
く地面を見ながら思った。
 だが、地面はホッパーの視界いっぱいには広がらな
かった。
 途中でピンと張り詰め、やはりリッパーと同じ状態
にされた。
「どう? これなら見晴らしもいいし、特等席には最
適だと思うけど?」
 窓からレイラが叫ぶ。
 確かに彼女の言う通り、ここは特等席だし、見晴ら
しもいい。
 だが、気分としては最悪だ。
「こんな事をして、ただで済むと思ってるのか!?」
 ホッパーが叫ぶ。
「嫌なの? じゃ、切り落としてあげようか?」
 レイラが手刀に邪悪なオーラを溜め、2人のロープ
を斬ろうとする。
 が、それは寸前の所で止まった。
「フフッ、冗談。それじゃ、私が約束を破った事にな
るもんね」
 舌を出し、お茶目な顔を見せるレイラ。
「でも、これだけは忘れないで。あなた達の命は、私
達の手の中にあるという事を…」
 またしても、巨大な殺意がレイラから感じられた。
 その時、レオンが声をかけた。
「レイラ、戯れはその辺にしておけ…」
「はぁ〜い」
 嫌々ながら、レイラはレオンに従い、窓の外の2人
を見るのをやめる。
「それより、例の奴は連れてきたんだろうな?」
 レオンがレイラに尋ねる。
「あいつ? うん。ちょっと手間がかかったけど、今
じゃ私達の可愛い部下だよ」
 すると、レオンの部屋に何者かが入ってきた。
「あ、遅いよ。竜ちゃんも。何で、大人の人って皆、
起きるのがこんなにも遅いの?」
 レイラは納得のいかない様子であった。
 レオンは、たった今、部屋から入ってきた人物を頭
から足の先までゆっくりと見る。
「完璧な洗脳具合だ。まさに5人目の戦士にふさわし
い…」
「ありがと、誉めてくれて。お礼に何かちょうだい!」
「それは、全てが終わってからだ…」
 数秒間の沈黙があった後、それに従うレイラ。
「わかった。忘れないでよ!」
 そう言い、彼女は部屋を後にした。

 中に残っているのはレオンと人相の悪い男。
 白いコートの下に、黒で統一した服装、サングラス。
 見た目、極道の人間と思わせる。
 日本人ではあるが、190cm以上あり、横の黒い
髪と上部の金髪が印象的だった。
 また、癖なのか、いつも左手はポケットの中に入っ
ていた。
「さて、お前にもそろそろ持ち場についてもらおうか
な、山崎竜二…」
 山崎と呼ばれた男は、何も言わず、ただレオンの指
示を聞いていた。
 そして、了承したのか、目を赤く光らせた後、部屋
から去っていった。

 一人になったレオンは時間を確認する。
「そろそろ午前9時か。いよいよ合図のしどきだな…」
 そう言うと、レオンは受話器を取り、タワー内のス
タッフにある準備をさせるのであった。


 
第8話に続く
第6話に続く
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