涅槃幹部裏設定 〜帰郷〜


そこで、昔を思い出すことを止めた…泣き叫ぶ少年も、少女の亡骸も、その他の遺体も消え去った。
残ったのは、教会の白い床、白い壁、椅子、祭壇……
ステンドグラス等は割れてはいたものの、教会の内側の壁に、弾痕はあまり見当たらなかった。
それが、この教会の安全さを物語っている。
しかし、もうこの村に、人間は誰一人居ない…
シェイドは少し歩き、とある地点に立つ。そこは…自分が泣き叫んだ場所……

十数分後…シェイドは村を出ていた…先程とは別の村の出入り口から…
道は森へと続いていた。その道を無言で歩くシェイド。
木々の間からは日の光が差し込んでいる…心地よい朝の光だ。
本人がそう感じているのかは不明であるが…

急に視界が開けた…なだらかな下り坂の先に平原があった。
道は、その下り坂に沿うように続いている。
そして、坂の手前に石造りの家が一軒…シェイドはその家へ一歩一歩近づいて行く…

「調度一年ぶりだな…爺さん」

ドアを開けたと同時に、シェイドは言った。

「やはりな…今年も来ると思っていたよ」

中には、白髪白髭、小柄で初老の老人が椅子に座っていた。そして、一匹の黒犬も。

「木は増えたか?爺さん」

「バカモン!!一年や二年でそう増えると思うか」

半ば本気で老人は怒っているが、シェイドは一切動じていない…

「で…今日も行くのか…?」

「まあな…」

老人の質問に短く答えるシェイド。

「あの事件以来…もうお前さんしかここに来なくなったな…」

老人はそう言いながら椅子から立ち上がる。シェイドは黙ったままだ。

「何年前だったかな…あの日、何処かのテロ組織が何台ものジープで村に乗り込み、
 沢山の人々を銃で撃った…何故そんなことをやったのか、全く持って不明だ…」

シェイドは沈黙を保っている。老人は淡々と出かける用意をしながら続ける。

「それで村人のほとんどが死に、この下の平原に葬られ、石碑も建てられた…
 始めの内は生き延びた者や親戚が弔いに来ていたが、今はもう…お前さんだけだ…
 確かに、あの村はこんな山の中にあるし、一番近い町まで歩いて何時間も掛かる…」

老人は、木の実が入っていると思われる袋を担ぐ…
どうやら、これを山の中に植えて、木を増やしているようだ…

「じゃが、それだけの理由でここに来るとも思えんがね……
 誰もかもがあの村で起きた事件を歴史の闇に葬り去ろうとしている…
 そう見えるよ…ワシにはな…」

「言っておくが、俺にその事件のメッセンジャーを期待するな…」

シェイドは多少ぶっきらぼうに答え、先に家を出た。
後から老人も出てきた……その後ろには、あの犬も……

「そういえば…お前さん、小さい頃からあの嬢ちゃんと、よくここに来てたな…」
 今でも忘れられんのじゃろう……ずっと来ているってことは…」

老人は少々笑いながら言う……シェイドは振り向かずに黙っていた。

「図星じゃなあ、カカカカ…さて、行ってくるぞい」

「勝手に行けって…」

老人の笑い声に多少呆れながら、シェイドは短く言った。


 


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