スノウ・ホワイト
〜雪のように白く、雪のように儚く〜


第3話

作者 堕天使

「えい!」
 身体つきの割に鋭いハイキックが、クァトゥールの顔面向かって迫り来る。しかしその動きはまだ未熟で、クァトゥールは瞬きもせずあっさりとその蹴りを受け止めた。だが、スノウはすぐさま軸足で地を蹴り、宙に浮いたまま足の甲を軸にして空中踵落としに移行した。が、その攻撃もあっさりと読まれ、逆の手で防がれる。完全に空中で無防備状態になったスノウは、すかさず両足で自分の攻撃を防いだ腕を蹴り、宙返りしてクァトゥールとの間合いを取った。
「無闇に飛び上がるな。確かにお前はパワーはあるが、今私がお前の蹴りをガードした際に足を掴んでいれば、お前は抜け出せずに決定的な反撃を喰らう所だったんだぞ」
「……ごめんなさい」
 構えを解いたクァトゥールは、口早に今のスノウの攻めの指摘を始める。誉める部分の見当たらないその内容に、スノウはしょんぼりと俯いて呟いた。パパと呼び慕っている人物からの叱咤は、スノウのような子には相当堪える。
 そのスノウの様子に軽く溜め息をついたクァトゥールは、それまでの厳しい表情を解いてしょぼくれるスノウの頭をそっと撫でる。
「まあ、一週間でここまで上達できたのは流石だ。こういう事も、近いうちに身につくだろう……」
 クァトゥールのフォローに、スノウはぱっと顔を上げ瞳を輝かせた。その顔には、既にいつもと同じ無邪気さが宿っていた。
「そろそろ昼食の時間だな。部屋に戻るぞ」
「うん!」
 喜色満面という言葉を体で表すように極上の笑顔を浮かべたスノウは、クァトゥールの腕に元気よく飛びついた。
 昼食を食べるために部屋に帰る。ちょっと前のクァトゥールからすれば、それはとても考えられないことだった。いつもなら、昼食の時間など関係無しに研究に没頭し、予め携帯してきた数個のパンを、空腹が襲ってきた時に食べるぐらいだ。そんな彼が、ここの所は毎日朝昼晩の食事をきちんと部屋で摂っている。その原因は、誰が見ても明らかだった。
 だからこそ、その日が来るのを恐れたのは、他の誰でもないクァトゥールだった。


 

第4夜に続く
第2夜に続く
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