『中国の凄い奴』
第3話
真昼間の鬼ごっこも佳境になってきた。
一体どれだけかけっこしたのだろう・・・。気付けば周りには人すらいない薄暗い裏路地のような通路になっていた。
しかし、追う者である龍黄の足も尋常ではなかった。
逃げ切ろうと駿足で駆けるその男を捕らえたのだ。
「捕まえたぁっ!」
「!!?」
『ドガラシャーンッ』
ゴミ箱や周りにあった缶などが勢い余って転んだ二人の衝撃で散乱した。
わき腹あたりを押さえ嗚咽をもらす男。
「ぐぅう・・・」
ぜぇぜぇと息を切らしながらその男に近寄る龍黄
「はぁ・・はぁ・・・、謝ってもらいますよ・・・」
「・・・?」
水鉄砲でも食らったかのような顔で龍黄を見つめるその男、40代ごろだろうか・・・、どこか寂しそうなその瞳は無言で龍黄に尋ねるようだった。
「僕の買ったばかりのPGM…いえ、プラモを粉々にしたお詫びを・・・」
「プラ・・・?玩具か…、そんなことの為に俺を追ってきたのか!?」
呆れた顔で龍黄を見つめる。
「え?え、えぇ・・・。まぁ、そうですね・・・」
途端になんだか恥ずかしくなってきた龍黄。
「では、貴様は・・・『暦』ではないのだな?」
「え?なんですか?カレンダー?あぁ、今日は2001年の・・・」
「ふ、・・・どうやら違うようだな・・・。何者か知らんが」
微笑を浮かべ目を閉じると、少し間を置いて再び目を開いた。
その目は明らかに敵意を持っていた。
「!?」
「俺の存在を確認したからには・・・死んでもらう!」
掌打が飛ぶ、紙一重でなんとか避ける龍黄
「え?えぇ!??な、なんでぇ!!?」
「これ以上しゃべる口は持っていない・・・」
凄まじいラッシュが龍黄を襲う。
右のストレートや、下からの上げ面、変幻自在に空中や後ろから襲い掛かる蹴り。…龍黄はすぐに気付いた。
『これはカンフーだ・・・。』
身軽にバク転で、距離を離すと龍黄は大きく深呼吸をして、静かに構えた。
「!?・・・貴様も・・・・、カンフーを・・・」
「これでも、中国を愛してるんで。…まだ来るなら相手をしますよ」
「…貴様も、天を目指すか・・・。あの、『翼の少女』と同じく・・・」
「はぃ?」
『ブォゥッ!』
風が眼前をかすめた。その反動を利用し、龍黄のカミソリのような脚が男を捕らえた。
男の頬からは鮮血が舞ったが、ひるむことなくその腕が龍黄の肩を捉えた。
「ぐぅぅっ!」
「うあっ!」
互いに膝をつき睨み合う二人の男、
「…その若さで中国拳法を極めつつあるのか。ふふ・・・俺が挫折するのも訳が無い・・・。だが!」
横一線に駆け抜ける男の会心の一撃、避ける龍黄のわき腹をかすめた。
急所は外すことは出来たが、かすめただけのわき腹から久しく味わっていないほどの激痛が走った。
「俺はここで退くわけにはいかん!」
迷いの無い格闘家の瞳をした男はさらに龍黄を睨みつけた。
『負ける』
龍黄の意識が彼の身体にそう警告した。だが、不思議なことに龍黄の頭には”恐怖”よりも”興奮”が上回っていた。
『殺されるかも知れないのに・・・この興奮は・・・!?』
男の一閃が間髪いれずにさらに襲いかかる
「!??」
視界から龍黄が消える、そして瞬間、凄まじいスピードのラッシュが男の全身を駆けた。
「ぅあたったたたたたたたぁ・・・!!」
一秒間に一体何発・・・いや、何十発の打撃が放たれているのだろうか?
しかし、決して軽くなく一発一発が実に重い。
「はいぃぃっっっ!!」
拳法の”師”ある父・鳥兵の教えであるこの一撃必殺の『撃打震』が完全に男を捕らえた。5メートルほど吹っ飛ぶ男の真後ろに何者かの足があった。
「え〜・・・もしもし、火神です。あ、わかりました?名前は・・・」
痛みに顔を歪めながら顔をゆっくり上げる男と、それを目で追う龍黄。
赤いジャケットの若い男が立っていた。男は携帯電話を片手に男を見下ろした。
「名前は・・・」
男の瞳から敵意は消えない。
「炎虎・・・」
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