時を駆ける青年


第四話〜気〜

作者 クラッシュさん


午後5時……
ここは…あるファミレス。市川 智也はここに来ていた。

店員「いらっしゃいませ。お客様お一人様ですか?」
市川「いや、すまないが、オレンジ色のヘアースタイルの男は来ていないか?」
店員「はい、あちらの方でしょうか?」

市川は店員の言う場所を確かめると、そこにはコーヒーを飲んでいる男がいた。

市川「ああ、そうだ。あいつだ。ありがとよ。」

そう言うと市川は店員をすり抜けて店内の奥に入っていった。
店内の奥にいた男は、決してかっこいいとは言えないが、センスはなかなかのものだった。明らかに若いと言うには無理があるとしかもしれない。しかし、髪の毛のオレンジ色が「若くない」とは言わせなかったのかもしれない。市川はその男の前に座っていた。

市川「元気かよ?和哉。」
男「あ、よう!まあな。」

この和哉と呼ばれる男は「青島 和哉」だった。彼は過去に室伏と共にKOFに出場したこともあった。今はバレーでイタリアのリーグでリベロとして活躍している。

市川「相変わらず派手な髪の毛だ。」
青島「まあな。おまえは老けたんじゃないか?」
市川「バーカ。大人になったって言えよ。」
青島「それって、俺がガキだって言いてぇのか?」
市川「ははっ!わかってんじゃないか。」

二人の会話はそこで途切れた。それから十分後、木原が来た。

木原「おう、和哉、智也。」
青島「おぉ!よう!木原!久しぶりだなぁ!!」
市川「お、来たな。」
木原「派手な色でわかりやすい看板があったから、すぐにわかったぜ。」
青島「俺のことか?」
木原「他に何がある?」

市川は笑いながらその会話を聞いていると綺麗なスタイルをした女性が入ってきた。3人はその女性に視点をあてた。決して、美しい女性と言うわけではない。彼らが、女性の方向を向いた理由は知り合いだったからである。他でもない「あいつ」の妻だった女性だからである。

市川「よう。久々だな、ホープ。」
木原「同じく。」
ホープ「もぉー、ビックリしちゃった。色が変わってないんだもん。」
青島「何で俺の髪の毛の事ばっかりなんだよ!!!」

彼女の名は「ホープ・グリーン」
もっとも「グリーン」は旧姓であって、今は「ホープ・ムロフシ」である。つまり、「室伏 崇」の妻にして「室伏 龍一」の実の母がこの人物にあたる。

市川「……不思議だぜ。こうやって集まるの何年ぶりだ?」
木原「さあな…このファミレス、そのまんまだな。」
青島「そう言えば、そうだな。」
ホープ「あっ、そうね。高3の時のお別れの時、ここで楽しんだもんね。」
青島「あの時も、丁度この席じゃなかったか?」
ホープ「そうだったかな?」
市川「ここじゃないよ。あっちの席だ。」
青島「そっか、席が空いてないもんな、あいつの…」


木原「やめろよ。」


木原はハッキリとした口調で言った。

青島「あ、、、悪い。」

青島は珍しく謝った。いつもおちゃらけな青島にも、状況がわかった。
市川も、木原も、そして、ホープも、、、信じられなかった。
目の前で友が、夫がゆっくりと力を抜くようにして、目を瞑った時を…
しかし、その時の「あいつ」の「室伏 崇」の唇は微笑んでいる形だった。

市川「…あいつ、笑ってたよな?」
木原「わからない。だけど、死ぬ寸前だって言うのに…寸前だって言うのに…」

木原の目は異常に輝いていた、言いかけた言葉を木原はすでに飲み込んでしまっていた。

青島「ホープ…その本当にゴメン、俺が最初にあいつの話題ふりかけちまったから、悲しくないか?」
ホープ「しょうがないわよ。ここは、私達の居場所だったんだもん。思い出すのも無理ないわ。それに悲しくなんかない。龍一も陽子もいるもの。」

龍一には双子の妹・陽子がいる。結構やんちゃでお調子者な所がある女の子である。龍一のような落ち着いた息子だけでは確かに寂しいかもしれないが、そんな娘がいれば、親も慰められるのだろう。

木原「悪い。最近、急に涙もろくなっちまってさ。」
青島「無理ないさ。おまえはあいつについていられたんだろ?俺は、その時イタリアにいたから、行きたくても行けなかった。もっとも、あいつが死ぬわけがねぇって思ってたからさ。」
市川「……。」

市川は黙っていた。市川は室伏の病気について何かを感じ取っていたからだった。それを言おうか迷っているのだろう。

ホープ「どうしたの?智也クン?黙っちゃって…まさか、また、龍一悪い事した?」
市川「いや、してねぇよ。」
木原「どうしたんだよ?おまえ、今の顔、何か隠してる顔だぜ?」

やはり、長年の親友にはわかっていたようだ。

青島「俺らは、仲間だろ?言ってみろよ。言わなきゃ殺す!」
市川「…わかったよ。おまえらには完敗だよ。……よく聞けよ?」
ホープ「……。」

一番、耳を傾けていたのはホープだった。

市川「室伏の奴、気に飲み込まれて死んじまったんじゃないかな?」
青島「!!…なんだって?」
市川「あいつ、「気」そのものを使うようになってから、体が弱くなっていったような気がするんだ。」
木原「……でも、仮にそうだったとしても、なんなんだ?過去を悔やんでるのか?おまえらしくもない。」
市川「違うんだ。心配なのはこれからなんだ。」
ホープ「これから?」
市川「ああ、そうさ。これからさ。……龍一の力さ。」
ホープ「龍一の?」
市川「あいつは、龍一は気を操れるようになってきたんだ。」
木原「あの子供がか?」
青島「う、嘘だろ?」
市川「嘘じゃねぇ。あいつは自分で気づいてないかもしれないが、室伏に近づいてるのかもしれない。少なくてもあいつは、確実に室伏を超える力を持っている。」
ホープ「でも、気が操れるなんてなんで、わかったの?」
市川「感覚さ。室伏の側にいるときと同じ感覚なんだ。あいつは。」
木原「…「気」を使うって事は、あいつも同じ道を?」
市川「ああ、俺の感が当たれば、当たっちまうと、龍一は室伏と変わらねぇ死に方をす…」
青島「うるせぇ!…大丈夫だ。二回同じ事はくりかえさねぇって……」
市川「…そうだな。すまねぇ、暗い話ししちまって…」
ホープ「しょうがないわよ。さあ!今夜は飲みましょう!青島クンのおごりで!」
青島「なぁ、なんで俺かー!!!?」

市川は微笑んでいた。自分らしくない事はわかっていた。しかし、市川は龍一の事が気にもかからなくなった。自分は一人ではない事を改めて実感したのだった。


続く


 

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