時を駆ける青年
第八話〜初恋〜
作者 クラッシュさん
| 少女の家にて… 少女は布団をひいて、気絶している市川達の頭の上に濡れた布をのせていた。 龍一「あ、すみません。そんなことまで…」 少女「いえ、戦で傷ついた侍様もよくここに逃げて来る時がありますから。」 龍一「そ、そうなんですか…。」 龍一は「戦」という言葉に少々びびっていた。 龍一「あの、申し遅れましたが、俺、室伏 龍一と申します。」 少女「私は、花憐と申します。」 二人は共に礼儀正しくお辞儀をしながら、自己紹介をしていた。 龍一「花憐さんですか。とてもいい名前ですね。」 花憐「はい、私も気に入っています。龍一さんもとてもたくましい名前ですね。」 龍一「そんなことありません。あ、そういえば、御家族はいらっしゃらないのですか?御礼など言いたいのですが…」 花憐「家族はいません。両親は病で死んでしまって、兄は、刀一本を持って、行方不明に…」 龍一「え?あっ、す、すみません。」 花憐「いえ、気になさらないでください。龍一さんは御家族はいらっしゃるんですか?」 龍一「はい、母と妹がいます。」 花憐「あ、お父様はいらっしゃらないのですか?」 龍一「はい、父は病で死んでしまって…」 花憐「あっ、すみません、変なこと聞いてしまって…」 龍一「いえ、お互い様です。」 この二人はまるで、初めてお見合いをしている若者のようだ。 花憐「そういえば、あのお二人大丈夫でしょうかね?」 龍一「大丈夫ですよ。あの二人不死身って言うぐらいの男ですから。」 花憐「あっ…、あなたもたんこぶが……。」 龍一「あ、これですか?さっきぶつけてしまって…」 花憐「たいへん!見せてください。」 龍一「た、たんこぶですよ。だ、大丈夫です!」 花憐は龍一の顔にせまってくる。母と妹以外に女っ気がない龍一にこれは初めての事だった。龍一は大人しくなってしまった。 花憐「どうしましょう…結構大きいですよ。このたんこぶ…」 龍一「え、い、いや、そ、そのぉ…」 龍一はかなり恥ずかしがっていて何も答えられない。女性にこんなに接近されたのは17年間も生きていて初めてである。 花憐「あの、ちょっと待っていてください。」 龍一「は、はい。」 彼女は立ち上がると、布とバケツにくんであった水を持ってきた。その布を水につけ、少ししぼった後、その布を龍一のたんこぶに優しくあてた。 龍一「あ…」 花憐「痛いですか?」 龍一「い、いえ、そんなこと……全然…。」 龍一は顔を真っ赤にしながら、カッチンコッチンの状態だった。 そこに現れる、一人の者。 市川「くぅ〜!!いいねぇ!いいねぇ!青春してるねぇ!!」 龍一「い、市川さん!!」 花憐「あ、お目覚めになりましたか?」 市川「ああ、お嬢ちゃん。おかげで助かったぜ。いい夢も見れた。」 龍一「い、いつからそこに!?」 市川「いたら、悪いかよ。」 龍一「いえっ!めっそうもねぇです!」 市川「何焦ってんだ。おまえ。」 花憐「あ、お魚獲りに行ってきます。少し待っていていただけますか?」 龍一「お、俺も手伝います!」 市川「俺は待ってる!邪魔はせん!」 龍一「市川さん?」 龍一の目はマジだった。彼に冗談が通じないことを改めて確かめた市川はちょっかいを出すのをやめた。彼の怒った時は母・ホープ譲りでとても怖い。 市川「…ありゃ、あいつ、初恋だな。」 市川は龍一の成長がちょっと寂しく見えた。 続く |