翼の拳
〜Fists of Wings〜


第6話

作者 タイ米

 武聖流空手道場に大会の広告が届いた翌日、練習前に門
下生全員を集めて話を切り出した。
「実は1ヵ月後、大企業がスポンサーの異種格闘技大会が
開催される。これでいい成績を上げれば、間違いなくうち
の評価も上がるだろう」
「師匠、大会のメンバーなどはどうするんですか?」
 なのはが聞く。
「うむ。最後まで練習を見なければわからんが、この前の
他流試合同様、精鋭達を揃えていくつもりだ」
 なのはには、自分には縁のない話だと思った。だが、次
の瞬間、師匠は意外な発言をするのだった。
「しかし、それとは別に一人、どうしても出したい人物が
いるのだ」
 場内が一瞬にしてざわめく。
「だ、誰なんですか!?」
 なのはが尋ねる。
「お前だ。月影!」
「え!?」
 この言葉に場内はさらにどよめく。そして、一人の門下
生が口を開く。
「師匠、お言葉ですが、月影にはまだ早すぎるのではない
でしょうか。いくら成長が早いとはいえ、出場する選手は
プロ、またはそれに準じた者ばかりですよ!」
「わかってる。だが、月影には底知れぬ能力が隠れておっ
てな。それを引き出すのも師匠である私の仕事だ」
「しかし…」
「話は以上だ。皆、早速練習に入れ!!」
「はい!!」
 師匠は門下生の話を無理矢理終わらせた。門下生は納得
のいかない表情をしながらランニングに出かける。
 師匠に歩み寄るなのは。
「どうした、月影」
「どういうことでしょう、師匠。私にも今の説明は納得で
きません。私より強い人だって、潜在能力がある人だって
いくらでもいるじゃないですか!なのに…」
「月影…」
 なのはの言葉を途中で止める師匠。
「お前はまだ自分が潜在能力を秘めている事を完全に自覚
していないようだな」
「え?そんなことは…」
「だが、お前がどんなに否定しようと、お前の潜在能力の
凄さは私が認める。何せ、二回もこの目で見ているのだか
らな…」
「師匠…」
 黙ってしまうなのは。
「月影、その力を生かすも殺すもお前次第だ。お前がその
力を完全に受け入れない限り、ものにすることは不可能だ
ぞ」
 師匠がなのはの手を握る。
「せっかくの才能だ。腐らせるのは勿体無い。そして、そ
れを開花させる手助けをするのが師匠の仕事だ」
「………」
 確かにこのままでは翼の拳は出せても、ものにすること
はできない。ましてや、はばたくことなど…。
 なのはの決心は固まった。
「師匠、私やります!!」
 師匠はその言葉を待ってたかのように笑みを浮かべる。
「そうか、月影。ならばこちらとしても早急に手を打たね
ばな…」
「手?」
「今のお前には潜在能力はあっても、普段の力が安定しな
い。それでは話にならないだろう」
「はい」
 師匠が背を向く。
「月影…」
「はい」
「今日から一ヶ月、お前には特別メニューを課す。覚悟し
ておけよ!!」
「は…はい!!」
 なのはに緊張が走る。
 これから地獄の一ヶ月が彼女を待っている…。



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