翼の拳
〜Fists of Wings〜
第9話
作者 タイ米
「一回戦、炎虎の相手は月影なのは…」
女学生…カスミは大会のトーナメント表を見る。そ
して、手のひらから蒼い炎と共に大会参加者のリスト
ファイルを取り出す。
「月影なのは…、さっきのあの娘ね」
カスミは主人である『二月』にこの事を報告する。
「どうしますか?マスター…」
カスミは『二月』の返答を待つ。
彼の答えはこうであった。
『なるほど。本来なら一回戦の相手を大会前に倒して
乱入するところだが、相手も少女ならその必要もない
だろう。カスミよ、作戦は二回戦以降だ…』
「了解…」
カスミは『二月』とのやりとりを終えると、そのま
ま会場内に入っていった。
大会参加者控え室。武聖流空手の門下生達は思わず
絶句してしまった。
「マ、マジかよ。月影の緒戦の相手がよりにもよって
炎虎とは…」
トーナメント表を見た門下生の一人がつぶやいた。
「師匠、炎虎って人は一体…」
なのはが尋ねる。
「炎虎。ある異種格闘技大会では無類の強さを発揮す
る中国拳法使いさ。今回の有力な優勝候補でもある」
「優勝候補!?」
「ったく、そんな奴にわざわざ緒戦の相手を大会初出
場の少女にしなくたっていいのに…」
同じ大会参加者が愚痴をこぼす。
「おい、今のは差別だ。月影とて大会参加者。お前達
と同じ立場なのだぞ!!」
師匠が注意する。
「も、申し訳ございません!!」
大会参加者が今の言葉を取り消す。
「しかし、大会一試合目から月影とは正直、私も驚い
たよ。月影、アップは済んでいるな」
「はい!!」
「よし、行こう!!」
師匠が立ち上がり、門下生達と共に控え室をあとに
する。
開会式も終わり、一試合目の準備が始まる。会場に
はたくさんのギャラリーが集まっている。
これにはさすがのなのはも緊張する。だが、それを
解してくれたのは師匠であった。
「月影、そう固くなるな」
「わ、わかっていますけど…」
「お前は初めてなんだ。無理していい格好つけような
んて考えなくていいんだ。それより普段のお前を出し
ていく事。いいな!!」
「は、はい!!」
リングアナが前に出る。
「それではこれより、異種格闘技選手権、一回戦の第
一試合を行います!!」
ギャラリーの歓声がどっと湧く。
「では、青コーナーより武聖流空手、月影なのは選手
の入場です!!」
紹介の後に、なのはがドキドキしながら入場する。
「おっ、かわいいじゃねぇか!!」
「頑張って〜!!」
ギャラリーから次々と声援がくる。だが、今のなの
はには、それを聞く余裕すら無い。
続いてリングアナが紹介する。
「それでは赤コーナーから、無敵の中国拳法使い、炎
虎選手の入場です!!」
さっきとは比べものにならないぐらい歓声が大きく
なる。なのはもこれには圧倒される。だが、当の本人
は、まるで聞こえてないかの如く、入場してきた。
目を瞑り、落ち着いてはいるが隙は感じられない。
何より、立っているだけでその男の強さが感じられた。
ゆっくり目を開く炎虎。
「お前か。俺の相手は…」
なのははビクッとした。
「怖いか?俺が…」
なのはは喋れなかった。会場の空気、そして炎虎の
闘気に圧されて…。
「お前みたいな小娘がなぜこの大会に参加したかは知
らん。だが、生半可な心掛けは命取りになりかねん。
それがこの世界だ…」
炎虎は構え始める。
「お前は、この世界に耐えられるか?」
なのはは息を整える。そして、やっと喋りだす。
「私だって…、私だってその覚悟は出来てる。でも、
その中から何かを得ていくしかないんだ!!」
「そうか…。ならばそれでいい。早く構えろ。格闘家
にそもそも言葉はいらない…。その拳で語りあうのみ
だ!!」
なのはも構える。
一瞬の静寂。
「始めぃ!!」
審判の声と共に動き出す両者。
闘いは始まった…。
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