翼の拳
〜Fists of Wings〜


第10話

作者 タイ米

「えいやぁっ!!」
 先に仕掛けたのはなのはであった。しかし、なのはの
正拳突きを何でもないかの如くガードする炎虎。
 だが、決してなのはは手を緩めない。
(とにかく攻め続けるんだ!相手が手が出せないほどに!
こっちは手数で勝負だ!!)
 なのはは、この一ヶ月の全てをこのラッシュに捧げた。
以前のなのはとは比べものにならないほどスピードが、
そしてパワーが上がっていた。炎虎はただただガードに
徹していた。
「やあっ!!」
 なのはの回し蹴りが炎虎を襲う。
 その時、初めて炎虎が手を出した。なのはの蹴りが当
たる寸前、炎虎は彼女の足を掴んだ。そして、そのまま
自分の方に引き寄せる。

 ズンッ!!

 炎虎の掌打がなのはの腹部にクリーンヒットする。
「か…はっ!!」
 かつてない衝撃になのはは吐血する。
 だが、炎虎は尚も追撃をする。
 よろけるなのはに蹴りの連撃をお見舞いする。
「クッ…!!」
 全てをまともに受けるなのは。力の差は歴然だった。
 これを見ていた門下生達も、もう見ていられない状況
だった。
「師匠、もう止めさせましょう!月影は十分闘いました。
あれでは今後の彼女に、確実に支障を来たしますよ!」
 門下生の抗議に静かに口を開く師匠。
「それは出来んな。最初に言ったはずだ。『悔いは残すな』
と。今、ここで我々が止めれば確実に彼女に悔いが残る。
それこそ今後の彼女に影響を及ぼしかねん」
「ですが…」
「それにあいつは全てを出しきってはおらん。それまでは
私は止めさせる気はない!!」
「師匠…」
 門下生は呆れた様子だった。だが、試合場の方を向きな
がら師匠はこう言った。
「お前達、よく見ておけ。なぜ私が月影を試合に出そうと
したのか。もうすぐそれが明らかになる…」
「え?」
 門下生達は一斉になのはに注目した。
 試合は相変わらず一方的な展開であった。ほぼ無傷な炎
虎に対し、ボロボロの状態のなのは。立っているのもまま
ならなかった。
 観客からも「もういい」「十分闘った」という声が聞こ
えた。だが、なのはは諦めたくはなかった。この一ヶ月間
の苦労を水に流したくなかったのもあるが、何より「翼の
拳」を出さずに終わりたくはなかった。
 それとは関係なく、炎虎はとどめの態勢に入っていた。
「これで終わりだ、小娘…」
 地面が激しく揺れた。
 炎虎の拳がなのはに襲いかかる。
 誰もが終わったと思った。炎虎自身も…。

 だが、次の瞬間に会場が騒然とした。
「な!?」
 炎虎も思わず驚いた。
 なのはの拳から光り輝く翼が生えたのだ。

「さあ、見せてみろ、月影。本当のお前を…」
 師匠は笑みを浮かべた。



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