翼の拳
〜Fists of Wings〜


第15話

作者 タイ米

 今もまだ、なのはは鮮明に覚えている。
 炎虎との試合。
 あの試合は確実に炎虎が勝っていた。
 あの言葉がなのはの脳裏を過ぎるまでは…。

『自分に勝てよ…』
 大会直前に師匠に言われた言葉。
 もし、ここで避けるのを諦めたら、それは試合に負けるのではない。
自分に負けることだ。
 そうなればこの先、「はばたく」ことも叶わなくなってしまう。
 なのはは自分の拳を信じた。
「この拳に…」
 炎虎の拳が最高のインパクトに達する前に、頭で拳を抑えつけるなの
は。
「私の全てを〜〜〜〜ッッッ!!!」
 翼の拳。
 なのはが届くギリギリの間合いだった。
 その攻撃は、見事に炎虎の人中をとらえる。

 なのはが自分に勝った瞬間でもあった。

 それから彼女は一週間ほど入院した。
 勝ったとはいえ、次の試合は続行不可能。
 14の体にはあまりに衝撃が大きかったか、ニ日ほど昏睡状態に陥る。
 退院後もしばらくは安静にしていた。
 その間もずっとあの時の事を考えていた。
 だが、なのはもやっと確信するようになった。

 自分が強くなった事を…。

 自分自身を信じる事が出来たからであろうか、前まではよほどの事がな
い限り出なかった翼の拳が、少しずつではあるが自分の意志で出せるよう
になったのだ。

 今日は練習復帰の日。
 早く練習を始めたいとなのははウズウズしていた。
 そして、道場の中に入るなり大声を上げる。
「みなさん! お久しぶりです!!」
 道場生達が一斉にこっちを向く。
「おおっ、来たのか! 月影!!」
「おかえり! 月影!!」
 皆、なのはの復帰を歓迎した。
 師匠もやってくる。
「師匠、お久しぶりです!!」
「傷のほうは、大丈夫なんだろうな」
「はい!」
「そうか……」
 すると、師匠は後ろの方をチラッと見る。
「あの、師匠。何か…」
「うむ。実は一週間前に新しい弟子が入ってきてな…」
「新弟子…ですか?」
「そうだ。おい、こっちへ来なさい!!」
 すると、新しい門下生はこちらに近づいてくる。
 なんとその人は女性で、年齢も身長もさほどなのはと変わりはなかった。
「あ、あなた…」
 なのはは驚いた表情を見せる。
「坂井 カスミです。よろしくお願いします!!」
「つ、月影なのはです。こちらこそ、よろしく…」
 二人は握手を交わす。

 なのはの驚いた訳。
 それは、彼女が大会前に偶然なのはとぶつかった女学生だったからであ
る。



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