翼の拳
〜Fists of Wings〜


第16話

作者 タイ米

 カスミが入門して、2週間が経った。
 彼女は、順調に腕を伸ばしていった。
 また、日を追う毎になのはと仲良くなっていった。
「へぇ、なのはさんのお父さんって金メダリストなんだ〜。羨ましい
なぁ…」
「そうかな? いつも一緒にいるせいか、そこまで凄いって思った事
ないけど。アハハ!」
 この光景を見て先輩の道場生達は、なのはが変わったと思うのだっ
た。
 他人が苦手ななのはにとって、ここまで相手に対して心を開いた事
がないからである。
 歳も身長も同じくらいで、話が会いやすいことはあるかもしれない
が…。
 練習が終わり、帰る時も二人は一緒だった。
 なのはにとって、カスミといる時ほど楽しい時間はなかった。

 そんなある日、練習が終わり、今日もまた二人は一緒に帰っていっ
た。
「フゥ、練習きつかったね!」
 なのはが切り出す。
「そうね。でも、日々強くなってるって実感も湧いてるわ」
 カスミが返す。
「へぇ、じゃあ、私もうかうかしてられないな。アハハハ!!」
「フフフフフ」
 二人とも笑う。
 しばらくして、カスミがなのはに尋ねる。
「ねえ、なのはさん。なのはさんってどうして空手をやろうと思った
の?」
 カスミの唐突な質問に一瞬戸惑うなのは。
「う〜ん、空手というより武道を始めたきっかけっていうのが、父の
影響なんだ」
「あの、金メダリストの?」
「うん。私も空手をやる前は、柔道を練習してて…。でも、全然ダメ。
最初は武道を諦めようかと思ったけど、やめられなくて…。でも柔道
じゃ無理。そこで、父に今の空手道場を紹介されたの。」
「へぇ、そうなんだ」
「カスミちゃんは?」
 今度はなのはが聞き返す。
「私? 実はなのはさんのあの試合を見て、それで…」
「私の試合?」
「だって、私とほとんど変わらない人が、体格も違うし、強そうな人
と相手するんだよ。それだけでも凄いのに、その人に勝っちゃうんだ
よ!」
 カスミは言ってて、段々興奮してきた。
「ハハ、確かに勝ったよ。でも本当に紙一重だったからね。どちらが
勝ってもおかしくなかった…」
「でも、なのはさんが勝った。それで私、何だか励まされたような感
じがして…」
「そ、そうかな…」
 自分の闘いを通して励まされる人がいる。この事実を聞いて、なの
はは改めて、闘いが与える影響力を、身を持って実感した。
「ところで…」
 カスミが聞く。
「何?」
「あの試合の時に見たんだけど、何か途中でなのはさんの拳が光って
たような気がするんだけど…」
「え、ええ…」
「それから、何か翼のようなものが現れて…」
「ああ、翼の拳ね!」
「翼…の拳?」
「ああ、私がそう呼んでるの。拳に翼のようなものが生えるから…」
「できれば、見たいんだけど…」
「え?」
 このカスミのリクエストに驚くなのは。
 確かに今は、以前よりは出せるようになった。
 しかし、100%出せるには至っていないのだ。
「なのはさん?」
 困った様子のなのはを見るカスミ。
「あ、ごめん。今日は用…」
 その時だった。
 近くで殺意が感じた。
 といっても、感じたのはカスミだけだった。
「あ、私もそういえば用事を思い出した! ごめんね、なのはさん。
また今度!!」
 そう言い、去って行くカスミ。
 ただ、その背を見つめるなのは。
「変なカスミちゃん…」
 つぶやくなのは。
 次の瞬間、背後で靴音がした。
 振り向くなのは。
「遅いな。あの試合で慢心したか、全身、隙だらけだ…」
「あ、あなたは…」
 そこにいたのは、かつてなのはと闘った男、炎虎だった。




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