翼の拳
〜Fists of Wings〜
第19話
作者 タイ米
なのはを仕留め損なった夜、炎虎は一人、ホテルに戻る。
裏では例のマフィアが経営しているホテルだ。
部屋に入ると、まずは服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
シャワーが終わり、身を清めた後は服を着替え、床に座って瞑想に
入る。
炎虎は『月影なのは』に惹かれていた。
それは恋愛的感情ではなく、その拳にである。
マフィア主催の試合にて、炎虎は彼女に敗れた。それは自分自身の
プライドが一気に崩れてもおかしくはなかった。
だが、実際は違った。
なぜか、彼の心の中は清々しかった。
『また闘いたい』という感情が生まれたのだ。
確かにアモンの命令という形で、再びあいまみえるのは不本意とい
える。
だが、彼にとっては自分の命などどうでもよかった。
黙って死ぬ選択もできたのだ。
しかし、彼の心がそれを許さなかった。
日に日になのはと闘いたい意志が強くなる。
そこで、炎虎は自分の最期の闘いの相手になのはを選んだ。
それが偶然、アモンの命令という形になっただけなのだ。
だが、彼にとって誤算だったのが…
なのはが闘う意志を見せなかった事。
過去に自分を挫折させた者が邪魔しに来た事。
そして…
「龍、隠れてないで出てきたらどうだ。お前が尾行していた事はわかって
いる」
目を開ける炎虎。
「あら、ばれてたノ? 精一杯、気配を消してたのニ…」
炎虎の前に現れた一人の女性。
「やはりお前か、龍。『月影なのは』の仲間と話してたときに、妙な気配
を放ってたのは…」
「何ダ、そこまでばれてたノ。なら、ここまで必死になる事もなかったわ
ネ…」
龍が微笑を浮かべる。
「何しに来た、龍!」
「私がそんな事を言うと思ウ? 聞かなくても、あなたには大体察しがつ
いているはずヨ…」
龍から大量の殺気が感じた。
「なるほど、奴の刺客か。いかにも考えそうなことだ」
「ボスの命令は絶対なノ。たとえ、相手があなただとしてモ…」
「そうか…。ならば龍、今ここで俺を殺せるか?」
炎虎が構える。
「そういえば、あなた。今日はずっと女性に縁があるわネ…」
龍が茶化す。
「構えろ!!」
炎虎が叫ぶ。
「あら、やる気!?」
笑顔を浮かべながら構える龍。
その瞬間、周りの空気が張り詰める。
数分の間、両者は動かない状態であった。
勝負は一瞬。
そして、『それ』は刻一刻と迫っていた。
時計が0時を知らせる。
両者が同時に動き出した…。
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