翼の拳
〜Fists of Wings〜
第21話
作者 タイ米
動いた炎虎と龍。
その距離はどんどん近づいていく。
そして、互いに間合いに入った時、同時に攻撃を仕掛ける。
二人は攻撃をするすんでのところで、動きを止めた。
そのまましばらく動かない。
まるで、そこだけ時が止まったかのように…。
「どうした。殺すのではなかったのか?」
先に口を開いたのは炎虎だった。
「あなたこそ、らしくないわネ。寸止めだなんテ…」
龍の鼻先には炎虎の拳が、炎虎の喉元には龍のガラスの刃があった。
両者とも、あと少しで急所に当たるところだった。
この二人の攻撃のこと。急所に当たれば今の場合、即死である。
「炎虎、勘違いしないデ。あくまで私が出てくるのは彼女の殺害失敗の
ミ。今日は挨拶だけヨ」
武器を収める龍。
そして、不敵に笑う。
「それじゃ、また会いましょウ!」
「会わない方がいいんじゃないのか…」
「フフ、そうネ。私達にとってはそれがいいかモ…」
再び床に座り、瞑想を続けようとする炎虎。
「あ、そうそう、一言だけいうの忘れてたワ」
「ん?」
「あの少女を狙ってるの、『うち』だけじゃないかラ…」
その知らせを聞き、一瞬驚く炎虎。
「最近、『暦』って組織が派手に動き始めてネ。噂じゃ、ボスもかなり手
を焼いているらしいワ」
「…だからどうした」
「あまりモタモタしないことネ。下手すると、奴らに全て持っていかれか
ねないかラ…」
炎虎は無言だった。
「じゃ…」
そう言い、龍はその場から去った。
炎虎は構わず、瞑想を続けた。
「フフ、炎虎ったら何があったのかしラ。目が『あの時』に戻っていたワ。
初めて出会った『あの時』ニ…」
嬉しい表情を浮かべる龍。
「でも、やっぱり任務とは関係ないけどネ…」
一人、闇に消え行く龍であった。
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