翼の拳
〜Fists of Wings〜
第22話
作者 タイ米
夜、人気のない街。
そこには一人の青年と、彼を取り囲むように数人のチンピラ達がいた。
皆、青年よりも体格は一回り大きい者達ばかりだ。
チンピラの一人が口を開く。
「おい、てめぇ。俺達の縄張りに入ってくるたぁいい度胸じゃねえか」
チンピラの言葉に、青年も即座に返す。
「それ、誉めてるつもり? まあ、あんたらに誉められても全然嬉しい
もんじゃないがね…」
青年は軽く微笑を浮かべる。
「舐めてんじゃねえぞ、てめぇ!! 殺されたいか!?」
チンピラ達が早くも怒りをあらわにする。
だが、青年は動じる様子すらない。
「別に殺す殺さないは勝手だけど、その前に俺の質問に答えてくれない
か?」
「何!?」
「俺さ、実は『暦』って組織を追ってるんだけど、調べてるうちにあん
たらのグループが繋がってるってことがわかってさ。『暦』について何
か知ってる事があれば、俺に教えてくれないかなぁ…って思ったわけ」
「『暦』? 知らねぇな。知ってたとしても、てめぇに教える口はねえ
よ」
周りでチンピラ達が、狂気にも似た笑いを上げる。
「さて、質問には答えたぜ。今度は俺達がお前を殺す番だ!」
チンピラ達が構える。
その様子に呆れた表情を浮かべる青年。
「やれやれ。せっかく温厚なこの俺が話し合いだけで済ませてやろうと
思ったのに。チンピラ達は血の気が多くて嫌だね〜」
「るせぇ! その生意気な口を塞いでやる!!」
チンピラ達が一斉に襲い掛かってくる。
その瞬間、青年の表情が真剣なものになる。
「どうしてもやるのかい? なら、こっちも容赦しないぜ…」
数分後、辺りは静けさを取り戻していた。
立っているのは青年一人。
チンピラ達は彼によって気絶させられた。
ただ一人を除いて…。
「つ、強ぇ…」
意識のあるチンピラが、倒れている状態でそうつぶやいた。
近づいてくる青年。
そして、チンピラの目線に合わせるため、しゃがむ。
「さて、そろそろ吐いちまえよ。『暦』の事。わかってるんだぜ、あんた
らが『月影なのは』という少女を襲え、という命令を受けていた事も」
「チッ、そこまで調べられてんのかよ…」
「奴らは、何の為にその少女を狙う? 何か聞かされてるだろ! その為
にあんただけ手加減しておいたんだ…」
「し、知らねえ。本当だ! 上からは何も伝えられてねえんだ!」
青年は、しばらくチンピラの顔を見て納得したのか、立ち上がる。
「どうやら嘘じゃないみたいだな。じゃ、俺はこれで失礼する。ありがと
な」
そう言い、青年はその場を立ち去ろうとする。
その時、チンピラが呼び止める。
「おい。てめえ、名前は何ていうんだ?」
「あ、俺か? 火神。火神政樹だ」
「へぇ、火神ねえ…」
「聞きたいことはそれだけか? じゃ、俺も暇じゃないんでね…」
そう言い、政樹は顔を向き直し、再び歩き出す。
その時だった。
「そうかい。その名前、よく覚えておくぜ!!」
チンピラが背後から政樹に襲い掛かってきた。
右手にはナイフが握られている。
振り向く政樹。
「あんたさ、人の親切は素直に受け取るもんだぜ…」
チンピラのナイフをかわし、蹴りで右手からナイフを弾き飛ばす。
「ぐっ!」
チンピラの態勢が全身がら空きになる。
そのまま一気に間を詰める政樹。
「らぁっ!!」
政樹の渾身の拳が、チンピラの顔にヒット。
チンピラはそのまま吹っ飛び、立ち上がる様子を見せない。
「悪ぃな。喧嘩じゃ負けたことないんだ…」
その言葉を残し、去る政樹。
近くの公園。
政樹は椅子に腰掛けていた。
「ふぅ、手掛かりなしか…。やっぱり下っ端には何も伝えられてないか」
そう言い、彼の内ポケットから一枚の写真を取り出す。
「ならば、もうちょっと上の奴に聞くしかないか…」
その手には麻生夏香の写真が握られていた。
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