翼の拳
〜Fists of Wings〜
第25話
作者 タイ米
闇の部屋に一人、佇む男がいた。
『暦』の幹部、『二月』のアルシャンクであった。
彼の元に、金髪の美女があわてて駆け寄る。
「あなた、『月影なのは』に大量の刺客を送ったそうですね…」
美女の方を向くアルシャンク。
美女とアルシャンクの会話。
「鵺さん、それは違いますよ。これは組織の決定。彼女の力を欲しがって
いるのは我々二人だけじゃないんですから…」
「しかし、『月影なのは』にはカスミを送り込んでます。下手に手出しを
すれば、計画に支障を来たしかねます」
「残念だが、こちらも少し状況が変わってね…」
「状況?」
「彼女に、"疾風怒涛の葉月"がくっついた」
「え? あの…」
「そうだ。彼女が『月影なのは』を一日中ガードしているらしい。何故か
は知らんが、これではカスミの正体がばれるのも時間の問題だ。奴は俺の
魔力には敏感に反応するからな…」
「まさか、早く彼女のデータを集めるために!?」
「まあな…」
「で、カスミは、カスミはどうなるのです?」
歩き出すアルシャンク。
「まあ、そろそろ頃合かな…」
不敵な笑みを浮かべるアルシャンク。
そのまま、闇の部屋を出る。
鵺は、そのまま立ち尽くしていた。
一人、廊下を歩くアルシャンク。
(さて、そろそろ『あいつ』も動く頃かな…)
足音が、誰もいない廊下に響いていた…。
「ねえ…」
「何?」
なのはが夏香に尋ねる。
「学校に行く時もついていくわけ?」
「当たり前よ! 敵はどこから来るかわかんないんだから!」
「そりゃ、そうだけど…。でも、夏香も学校あるんでしょ?」
「まあね。でも私はいいの」
「私はいいって、そんな!」
その時、夏香がなのはを手で制す。
「夏…香?」
「誰かに尾けられてるわね。誰!?」
夏香が叫ぶ。
尾行している主は背後から現れた。
「よっ、麻生夏香ちゃんに月影なのはちゃん」
現れた青年は、尾行がばれても動揺すらしない。むしろ、見つけてくれて
嬉しいという表情をしていた。
「あ、あなたは?」
なのはが尋ねる。
「ああ、俺はこういうもんさ」
二人に名刺を渡す青年。
「火神探偵事務所社長、火神政樹」
なのはが読み上げる。
「ま、社長といっても今は俺一人なんだ。君達が助手になってくれれば、即
採用するけど」
政樹はガハハと笑い声を上げる。
「で、その探偵さんがなぜ私達を尾行してるの?」
夏香が尋ねる。
「う〜ん、そうだな。ショータイムが終わったら答えてやるよ」
「そうね…」
三人の周りには、いつの間にか男達が囲んでいた。
夏香と政樹は最初から気付いていたようだ。
「見つけたぜ、月影なのは! 上からの命令で、あんたを倒させてもらうぜ」
男の一人が叫んだ。
なのはが構える。が、それを政樹が止める。
「どうして?」
「こんな奴ら、俺達だけで十分さ。お姫様は、そこで俺達の活躍でも見とけ
って」
「そうそう。でなきゃ、ボディガードの意味もないわ」
この言葉にカチンとくる男達。
「んだと、こいつら! 囲まれてんだぞ! 二人で守れるかってんだ!」
「守れるぜ…」
そう言い、なのはを抱きかかえる政樹。
「てめえ! そんなんでまともに俺達とやりあえると思ってんのか!?」
「あんたらのようなならず者は、拳を使うまでもないさ」
「そうね。じゃあ、私も足だけで相手してあげる…」
完璧に堪忍袋の緒が切れた男達。
一斉に向かってくる。
「それじゃあ、始めようか…。ショータイムを!」
「OK!」
政樹と夏香も動き出した。
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