翼の拳
〜Fists of Wings〜
第26話
作者 タイ米
「うぉぉぉぉ〜っ!!」
「てやぁぁぁ〜っ!!」
なのはは、今、目の前で起こっている出来事に素直に驚いた。
政樹は自分を抱きかかえながら、夏香は足だけで闘っている。
当然、自分達の実力が100%出せるわけでもない。
だが、明らかに優勢なのはこちらの方であった。
そして、10分後には大量にいた刺客達も、簡単に全滅してしまった。
「あらあら、もうノックダウンなんて情けないわねぇ…」
夏香がつぶやく。
「ま、こいつらに苦戦してちゃ、これから先が思いやられるけどな…」
「それもそうね…」
政樹と夏香のやりとり。
二人は会って10分しか経ってないのに、もう数年のつきあいの仲間と
いう風に感じられた。
「あ、あの…、そろそろ降ろしてもらっていいですか?」
政樹に抱き上げられたままのなのはが言う。
「ああ、済まねえ…」
なのはを降ろす政樹。
「さて、そろそろ続きといこうかしら。何であなたが、私達の名前を知っ
ているの?」
夏香が尋ねる。
「ああ、実はひょんな事から『暦』という組織を追うことになってね…。
それで、調べていくうちに君達の名前が出てきたのさ」
「私達!?」
なのはが驚く。
「ああ、君のお仲間の麻生夏香君。彼女はれっきとした『暦』の一員だよ」
「え!?」
この事実にさらに驚くなのは。
「本当…なの? 夏香」
夏香は少し黙っていたが、やがて観念したのか、口を開く。
「その通りよ。私は『暦』の一員だった。さっきの奴らも『暦』の息のか
かった連中よ」
「そんな…」
なのははそれ以上、言葉が出なかった。
「でも探偵さん、これだけは言っとくわ。確かに私は『暦』の一員。でも
それは昔の話よ」
夏香が政樹に言う。
「ああ、その辺も調査済みだ。だって君は『暦』にいる時は『疾風怒濤の
葉月』って呼ばれてたんだろ? で、何があったかは知らないが、ある日
突然組織を抜け出した…」
「凄いわね。そこまで調べがついてるなんて…」
夏香が感心する。
「ハハッ、俺の知り合いに頼りになる情報屋がいるもんでね…」
そう言った途端、急に政樹の表情が変わる。
そこには、探偵・火神政樹の姿があった。
「で、聞きたいのはだ。何故、『暦』が月影なのはを狙ってるかだ」
「私を!?」
目が思いきり開いたなのは。
「俺にはその理由がいまいちわからん。かつて『暦』の上にいたあんたなら
何か知ってると思って…」
「悪いけど、私もよくわからないの。ただ『暦』が彼女の力を狙ってるとい
う話を聞いたから、その邪魔をしてるだけ…」
夏香が答える。
「力?」
政樹が聞き返す。
なのはは、思い当たるふしが見つかった。
翼の拳。
しかし、一体何故…。
「わかった。参考になったぜ」
全てを聞き終えた政樹。
メモをしまい、立ち去ろうとしたその時だった。
「ねえ、探偵さん。彼女を連れて、安全な所に行ってくれない?」
いきなりの夏香の発言に驚く二人。
「はぁ? どうしてだい…」
「そうよ。ボディガードのはずじゃ…」
政樹となのはがそれぞれ聞く。
「野暮用ができたのよ。早く!」
その目は、事態がさっきよりも深刻だという事を物語っていた。
「わかった。終わったら知らせてくれよ…」
「ええ…」
夏香がそう言うと、政樹はなのはを連れて、その場を去った。
一人きりになった夏香。
「さて、出てきてもいいんじゃない? 私の追手さん…」
夏香が呼びかけると、一人の男が現れた。
紫色の長髪で、学校の制服を着ている。
顔の表情は、長髪のせいであまりよく見えなかった。
「こんなところで油を売っていたとはな…。だが、『暦』から逃げられると
思うな!」
男が顔をこちらに向ける。
「零…だったかしら。『暦』の秘密兵器らしいわね。私のクラスメイトにな
るなんて、あんたも大変な任務についたわね」
夏香が零に話し掛ける。
「おしゃべりは終わったか…。戻ってもらうぞ、『暦』に…」
「あなたにできるものならね…」
両者とも、構え始める。
静寂が周りを包み込んだ…。
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