翼の拳
〜Fists of Wings〜


第28話

作者 タイ米

 夏香が構え、全身に気合を入れる。
 すると、数枚の葉が落ち、それらは地面に着く前に粉々になった。
「ふぅぅぅぅぅ〜っ…」
 夏香が一呼吸入れる。
 刹那、零との距離は目と鼻の先にまで縮まっていた。
「何!?」
 思わず驚く零。
「ハァッ!!」

 ザンッ!!

 夏香の斬撃が零を襲う。
 次の瞬間、零の周りで爆発が起こる。
 零は距離を取り、気弾を次々と放つ。
 しかし、夏香はそれを全て避けきる。
「…これが、"疾風怒涛の葉月"の力か!?」
 冷や汗を流す零。
 この隙を逃がさない夏香。
 次から次へと連撃を零にお見舞いしていく。
 あまりの速さにガードをするのが精一杯の零。
 だが、斬撃なので、ガードの上からでも相当のダメージを受けてしまう。
 両方の腕の痛みが、段々と酷くなる。
 彼の腕の震えがそれを証明している。
「これで終わりよ!」
 とどめの攻撃に入る夏香。
 その時だった。
 零が間一髪で自分の周りにバリアを張る。
「くっ!」
 バリアに当たったことにより、一瞬痺れる夏香。
 それを見逃さなかった零。
 目にも止まらぬ拳の一撃で、夏香の動きを止める。
「しまった!!」
 形勢逆転。
 この好機を生かさない零ではない。
「終わりだ!!」
 零の周りから邪悪なオーラが大量に流れる。
 そして、それを纏ったまま夏香に突進する。
「くたばれ! 葉月!!」
 零の攻撃が夏香にヒットする。
 このまま決まったかのように思われた。
 が、攻撃したはずの零が腹を抑えていた。
 腹には大量の血が流れている。
「くっ、攻撃が当たって呪縛が解けた瞬間を利用して、一発入れたという
わけか…」
「ま、そういうことよ…」
 対する夏香も相当のダメージを受けており、肩で息をしていた。
「とりあえずはいったん引き上げるとしよう。このままではお互い無事に
は済まんからな…」
「確かに…ね」
「さらばだ、葉月。また近いうちにな…」
 そう言い、零は姿を消した。
 一人になった夏香は、その場でへたり込む。
「全く、余計な体力使いすぎたわ…」
 そう言うと、懐から携帯電話を取り出し、政樹にかける。
「もしもし、終わったわ。少し遅くなるけど、ちゃんと待ち合わせ場所に
は行くから。それじゃ…」
 用件だけ伝えると、電話を切る夏香。
 ふぅっと一息つく。
 そして、小さい声で一人つぶやく。
「どうやら、本調子でいかないとダメかしら…」



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