翼の拳
〜Fists of Wings〜


第31話

作者 タイ米

 待ち合わせ場所に着いたなのはと政樹。
 といっても火神探偵事務所からさほど離れていない、やはり人気のない
場所ではあるが…。
「ったく、遅いな。あいつ…」
 愚痴をこぼす政樹。
「夏香にちゃんと場所教えたんですか?」
 なのはが聞く。
「もちろんさ。あの電話でちゃんと伝えたぜ」
「でも、あれから1時間経ってる。あそこからここまでなら、かかっても
30分くらいなのに…」
「まさか、何かあったわけじゃ…ねえよな」
「そんな、夏香に限ってそんな…」
 二人に言い知れぬ予感が走る。
 その時だった。
「なのはさ〜ん、どこにいるんですか〜?」
 一人の少女の声が聞こえた。
「あの声、カスミちゃん!!」
「お嬢ちゃん、知り合いなのか…ってちょっと待てよ!」
 声の方に急いで走り出すなのは。
 それを追いかける政樹。
「カスミちゃん!」
 なのはがカスミに呼びかける。
「あ、なのはさん!」
 なのはの方に振り向くカスミ。
「どうしたの? 私なんか捜して…」
「実は…」

 武聖流空手道場。
 ここに一人の少女が現れた。
 しかし、普通の客とは様子が違い、明らかに殺気が漂っている。
 門下生の一人が玄関に出る。
「何の御用でしょう?」
「あなた、ここの空手家さん?」
 少女が静かに聞く。
「ええ、そうですが、それが?」
 次の瞬間だった。
 門下生の胸から大量の血が流れた。
 あまりの出来事に、門下生も一瞬何が起きたかわからなかった。
「な!?」
 その場に倒れこむ門下生。
 少女は、門下生の体を踏みながら、道場内に入ってくる。
 この出来事を見た門下生達は、一斉に構え始める。
「ふふっ、いい顔。それでこそ、殺しがいがあるわ!」
 少女の目がさらに鋭くなる。
「何しに来た、お前!」
 門下生の一人が尋ねる。
 少女はゆっくりと口を開く。
「あなた達の看板をいただきに来たのよ…」



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