翼の拳
〜Fists of Wings〜


第32話

作者 茜丸

 カスミの伝令を受け、武聖流空手道場へと急ぐなのは達。

「あの…実はちょっと気になっていたんですが…」

 なのはには、先ほどから気にかかっていた事があった。

「気になっていた事?」

 走りながら政樹が聞き返した。

「はい…実はさっき夏香さんから電話がかかってきた直後に、
 同じ電話番号から男性の声で電話がかかって切れたんです。
 何かの間違い電話かとも思ったんですが…」
「……先にいえよ…そういうことは(-_-;;」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
1時間前…

「で、私に伝える事って何よ…!」

 夏香はヘルメスに向かって率直に尋ねた。
 対するヘルメスは、どこからか取り出したのか薔薇の花を一輪だして、
 ゆっくりとそれを差し出した。

「この僕の貴方への『想い』を…」
「ぶっ飛ばされたいのかコノヤロウ…」

 気を許しかけていた夏香はアッサリまたキレた。

「つれないですねえ…
 男性が女性に声をかけたらナンパに決まってるじゃないですか」
「知るか!」
「美しい女性にあったら声をかけろと母方の祖父から…」
「誰がおまいのじーさんの話をしとるか…!」

 渡しそびれた薔薇の花をクルクルと玩びつつ、
 いつのまにかまたどこかへ花を消してしまうヘルメス。

(なんで、こんなアホウにつきあわされとるんだろう)

 夏香はちょっとだけ馬鹿馬鹿しくなった。

「『暦』でね…」
「え…!?」

 夏香が完全に警戒を解きかけた刹那、ヘルメスが「暦」の名を口にした。

「あまり会議とか出てこない御気楽な幹部がいたそうでしてね…
 僕も真面目に出席する方じゃなかったから…
 結局、一度も会ったことはないんですよ。」

(この男…『十二人委員会』か!? )

「そしたら最近、脱走してしまったと聞いて…
 で、後から聞いたら愛らしい女の子だったというではありませんか?」

 ヘルメスがパッと両掌を広げた。
 そして、気がつくと先ほどの薔薇が夏香の髪に添えられていた。

 ヘルメスは、再び驚いた夏香の顔をみて少し微笑むと、
 真っ直ぐに夏香の目を見つめた。

「だから…逢いに着たんです。」
「結局…あんたも刺客ってわけ?」

 髪に添えられた薔薇を掴んで捨てると、
 夏香はヘルメスに敵意の眼差しを向けた。

「まさか、僕はしがない大道芸人ですよ…人を驚かせるのがお仕事です。」

 ヘルメスは喋りながらシルクハットを取ると、
 その中から3羽のハトが飛び出した。

「人を破壊するのは戦う人にお任せします。」

 ヘルメスはそう言いながら、帽子から次々と色んなものを取り出した。

「まして…女性が相手ならなおさらのこと…」

 ヘルメスはそう言いながら一通の手紙を帽子から取り出した。

「魔法使いはお姫様にカボチャの馬車をプレゼントするもの…」

 夏香はヘルメスの差し出した手紙を、ゆっくりと受け取った。

「この手紙は…何? 今度はラブレター?」
「『カボチャの馬車』…」

 手紙を渡すとヘルメスは帽子を自分の頭の上にかざした。
 ヘルメスは、またゆっくりと微笑み、
 そして何と、一瞬で帽子の中に全身が吸い込まれた。

「な…!?」

 驚く夏香の目の前で、シルクハットが地面に落ちた。
 そして、地面に落ちたシルクハットの中からヘルメスの手だけが伸び、
 ひらひらと手を振った。

「舞踏会でまた会いたいな…シンデレラ」

 帽子の中からそんな声が聞こえると、
 「手」は帽子を掴んで、帽子そのものを帽子の中へ飲み込んでしまった。

 そして…その場には誰もいなくなった。

 夏香は一瞬、あっけにとられ、
 そして「ヘルメス」の意味をもう一つ思い出した。

「ヘルメス…『ペテン師の神』か…!」

 夏香が手紙を開けると、中には数枚…
 「暦」主催の格闘大会への招待状が入っていた。



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