翼の拳
〜Fists of Wings〜


第33話

作者 タイ米

 数時間前、カスミは彼女の主であるアルシャンクに呼ばれた。
 カスミとアルシャンクの会話。
「マスター、お話があると聞きここにやってきました」
「ああ、ご苦労。実は君にやってもらいたいことがあってね…」
「やってもらいたいこと?」
「そう。月影なのはの力を引き出してほしい…」
「彼女の力を?」
「実は近々、組織主催の格闘大会が行われる。もちろん、彼女にも参加して
もらう」
 アルシャンクは、招待状をカスミにひらひらと見せる。
「だが、その前に彼女の力がどれくらいのものかを見定めなければならない。
炎虎との戦いもだいぶ時間が経っているだろうし、あれが全てだとは思えな
い」
「私が彼女と戦え…ということですか?」
「違う。君はそれとなく彼女を道場に連れてきてくれないか?」
「それじゃ、戦うのは?」
「こいつに任せる」
 アルシャンクが指を鳴らす。
 すると同時に、少女が姿を現した。
 見かけとは裏腹に、周りから大量の殺気が放たれていた。
「彼女は?」
「彼女は"疾風怒濤の葉月"。私の幻術で作り上げたが、戦闘能力は限りなく
再現されている…」
 葉月の眼鏡が不気味な光を放っていた。

 まさにあの時と同じく、道場に乗り込んだ葉月も眼鏡を不気味に光らせて
いた。
「さて、誰から血祭りにあげられたい?」
 笑みを浮かべる葉月。
「女が。俺達をなめてんのか!」
 一斉に向かう門下生達。
「なるほど。数で来たわけね…」
 葉月は構えるわけでもなく、ただ直立の状態でいるだけだった。
 そして、門下生の一人との距離がほぼゼロになった刹那、彼らの視界から
葉月が消えた。
 次の瞬間、門下生達の胸から大量の血が噴き出す。
「ぐぁぁぁぁぁぁ〜っ!!」
 次々と悲鳴が道場内に響いていく。
「フフフ、この悲鳴よ。気持ちよくてたまらないわ…」
 葉月が満面の笑みを浮かべる。
「何事だ!?」
 その時、騒ぎに駆けつけたなのはの師匠が現れた。
「あら、まだいたの?」
 目の前の光景に唖然とする師匠。
「まさか、これを君がやったというのか!?」
「…だとしたら?」
 挑発の素振りを見せる葉月。
「道場破りか。私も修行時代に一度見たことがあるが、それ以来だ」
 構える師匠。
「その時、私の師匠は戦い、相手を返り討ちにした。ならば私もそうするま
でだ!」
 師匠の周りから大量の闘気が発せられる。
 それに刺激されたか、葉月も構える。
「少しは面白くなりそうね…」
「私の弟子達をこんな目に遭わせたんだ。ただで帰れると思わぬ事だな!!」
 師匠の表情が厳しいものになった。



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