翼の拳
〜Fists of Wings〜
第34話
作者 タイ米
師匠は、普段と違う構えを取っていた。
片方の手を天に、片方の手を地に向けていた。
「天地の構え!」
師匠が叫ぶ。
そして、そのまま少しずつ葉月に近づく。
隙を探す葉月だが、師匠には微塵も感じられなかった。
「そして、ここから発する武聖流奥義…」
刹那、葉月の体が宙に浮く。
「なっ!?」
速さには絶対の自信がある葉月もこれには驚いた。
だが、師匠の攻撃はこれだけに止まらなかった。
受け身を取ろうとした葉月に、師匠の回し蹴りが襲いかかる。
「くっ!」
さらに、師匠は急激に距離を縮めて、葉月の腹に正拳突きを喰らわす。
「ぐあっ!!」
壁に激突する葉月。
「イヤァァァァァッッッッ!!」
師匠が吼える。
なおも構えを解くことをやめない。
「これが武聖流奥義、天地乱舞!」
「天地…乱舞!?」
「そう。全ての技を流れに身を任せるが如く、繰り出し続ける技。
これぞ天地乱舞!」
「フン、なるほどね…」
立ち上がる葉月。
「だけど、次はこうはいかないわよ…」
「やってみるがいい…」
相変わらず、隙のない師匠。
だが、守りに徹していれば、さっきみたいに不意を突かれる。
ならば…
葉月が動き出した。
そのまま攻撃に転じるかと思われたその時…
視界から葉月が消えた。
そして、次の瞬間には師匠の背後に彼女がいた。
「さっきのお返し!」
後頭部にハイキックを仕掛けた葉月。
が、それは虚しく空を切る。
「甘いな!」
屈む師匠。
そのままスライディングを敢行する。
「っ!?」
今度は受け身を取らず、素直に倒れようとする葉月。
起き上がりの攻撃で流れをこちらに傾けようと思った。
しかし、師匠にはその考えは通用しなかった。
「いいのか? 受け身を取らなくて…」
「!?」
蹴り上げ、かかと落としを脳天に喰らわす師匠。
「アァッ!!」
地に叩きつけられる葉月の体。
彼女を見下ろす師匠。
「天地乱舞は武聖流の最高奥義。
つまらぬ企てで破れるほど、甘くはない!!」
葉月にとって、これ以上の屈辱はなかった。
第35話に進む
第33話に戻る
図書館に戻る